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ジャームッシュ最新作は、No Music, No Blood!な愛すべきヴァンパイアもの!
誕生から幾星霜、ヴァンパイアは逃れるべきあやかしから姿を変え、いまではアウトサイダーないしはアンチ・ヒーローとして人々の想像、つまり物語のなかに生きのびている。『リミッツ・オブ・コントロール』以来、4年ぶりとなるジム・ジャームッシュ待望の監督作品『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』は吸血鬼譚の設定を借り、ヴァンパイアと人間たち――作中ではゾンビと呼ばれる――との軋轢もそこそこに、私はこの映画の主眼は、永遠の命をもつ登場人物が近世以降、目にした歴史の裏側を言葉にすることで虚構に仕立て上げ、蠱惑的な偽史を語り直すことにあると思う。そこには現状に対する強烈な否があり、フーコーのいう人口として捉えられた人間が、自発的だと信じこまされた選択で切り捨てた他方への愛着をまざまざと感じさせる。というとまことに観念的と思われるにちがいありませんが、そこはジャームッシュ、オフビートな笑いを散りばめている。たとえばアダムとイヴと名乗る主人公夫妻の旦那はミスティックな音楽家で、夜な夜な自宅スタジオで音楽をつくりながら、定期的に病院で血液を調達するのだが、彼の使うヴィンテージというよりビザールな機材、病院の医師と交わすジャブっぽいギャグの数々。夫妻の後見人と思しき老吸血鬼はシェークスピアに影響を与えた16世紀の英国の詩人にして劇作家、クリストファー・マーロウらしいが、老人は彼が『ハムレット』の真の作者であることをほのめかし、アダムはシューベルトに「弦楽五重奏曲」のアダージョを書き、ニコラ・テスラら科学史で不遇をかこつ人たちを語り合う、その(サブ)カルチャー全般にわたる知的好奇心をくすぐるやり口はクドカンどころではない。というと頭でっかちな映画と思われるおそれがあるが、細部が暗示するパラフレーズが物語の対旋律となり現実に織りこまれる感覚がどこまでもフィードバックする、なかなかに得がたい作品である。
映画『オンリー・ラヴァーズ・レフト・アライヴ』
監督・脚本:ジム・ジャームッシュ
音楽: ジョゼフ・ヴァン・ヴィセム
出演:トム・ヒドルストン/ティルダ・スウィントン/ミア・ワシコウスカ/ジョン・ハート
配給:ロングライド (2013年 アメリカ・イギリス・ドイツ 123分)
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12月20日(金)より、TOHOシネマズ シャンテ、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ渋谷、大阪ステーションシティシネマほか全国ロードショー。