NEWS & COLUMN ニュース/記事

(第19回)2013年ガール・ポップ裏街道大賞

連載
岡村詩野のガール・ポップ今昔裏街道
公開
2014/01/06   14:30
更新
2014/01/06   14:30
テキスト
文/岡村詩野


OkamuraShino4_19



ライター・岡村詩野が、時代を経てジワジワとその影響を根付かせていった(いくであろう)女性アーティストにフォーカスした連載! 第19回は、2013年度ガール・ポップ裏街道大賞を発表します!



あけましておめでとうございます。今年も皆さんが良き音楽に出会えますように! タワレコは現在、スヌーピーも喜ぶウィンター・セール中ですが、やはりお正月と言えば、お小遣いを手にしてレコード屋さんのセールに走る! これが音楽ファンの正しい行いでしょう。〈お正月とタワレコと私〉というテーマで思い出を綴るなら、2000年代はほぼ毎年のように横浜駅そばのタワレコ横浜モアーズ店で友達と待ち合わせて〈CDセール詣〉をしたものです。WIREやMagnetなど海外の音楽雑誌が充実していたのと、決してメガショップではなかったのにUSや日本のインディーの穴のような盤が入荷したりしていて、バイヤーのこだわりを感じたものでした。残念ながらそんな横浜モアーズ店は2013年7月に閉店してしまいましたが、私がかつて作っていた自主制作雑誌も多く仕入れてくれた、恩人的なショップだったのです。

ショップが近くにない方にはオンライン・ショップがある! というわけで、私は近くにタワレコがあろうとなかろうと時間さえあればチェックしているのですが、先日タワー・レコード・オンラインで全品70%オフのアウトレット・セールを覗いてみた時のことです。ビーチ・ボーイズ『Smile』の2CD+リトグラフ+ポスター+バッジから成る限定セット、16,265円が4,879円で販売しているじゃないですか! ストーンズの『Some Girls』も11,590円のスーパー・デラックス・エディションが3,477円になっている(現在はいずれも取扱終了)。安い!というより、普通に定価で買った方ごめんなさい!と謝りたくなる驚異のオフです。いずれもそれぞれのバンドにとって歴史的に重要なアルバム。価格が高くてなかなか手が出ないというボックス・セットなどもこうした機会に上手いこと入手に成功したら、日頃の行いの良さを自慢したくなったりするものです。ただし、安くなってる!と焦って頭に血を昇らせてしまうととんでもない失敗をやらかしてしまうのもよくあることで、すでに同じものを買っていたにもかかわらず、すっかり忘れたままお会計をしてしまうなんてこともお恥ずかしながらしょっちゅう。流石にボックス・セットでそれをやらかしたことはありませんが、同じものを2枚買う余裕があるなら他のものを買えたのに……と相当落ち込んでしまうこと必至ですので、お買い物は大胆に、でも慎重に、を心掛けたいものです。

さて、年末年始にCDショップへ行くと、書籍コーナーでは年間ベストなどを掲載した雑誌がズラリと並び、各売場でもそれと連動した展開がされたりしていますね。そこで、新旧洋邦の裏街道ガール・ポップを紹介しているこの連載でも、昨2013年、私・岡村がよく聴いたガール・ポップ、題して〈ガール・ポップ裏街道大賞〉を発表しちゃいましょう。順不同です。

Babi『Botanical』
カメラ=万年筆やスカートの澤部渡らとも親しい女性シンガー・ソングライターの2作目。作曲家としてはもちろん編曲/作詞家としても秀逸な彼女ですが、ライヴではブリジット・フォンテーヌと矢野顕子が出会ったような理知的かつ素っ頓狂な魅力がさらに堪能できます。そういや、タワレコ新宿店でのインストア・イヴェントにはカメラ=万年筆の佐藤優介くんがバック・メンバーで参加していましたね。あ、リリースされたばかりのカーネーションのトリビュート・アルバムでも彼女らしいちょっぴりユーモラスで愛らしいアレンジを武器に、存在感を放っていますよ。

恋のパイナップル『しましま』
以前この連載で取り上げたら、いろんなところで〈あれって何者?〉と訊ねられた謎のデュオ。素顔は武蔵野美大出身の女の子2人。一聴するとヘロヘロ、でもメロディーはちゃんと書けているしアレンジも細部に渡って凝ってます。同じく2013年には素晴らしい新作を出した三沢洋紀くんもオビに熱い推薦文を寄稿。これは6曲入りミニ・アルバムなので2014年はフルレングスを期待しています!

よだまりえ『それぞれの点について』
上の恋パナと同じ武蔵野美大で、まだ現役学生というよださん。まったく名前も聞いたことがなかったのですが、あどけなさの残る歌声とピアノだけでこんなにも表情豊かな作品になるのか!と驚かされたものです。ライヴハウスでサッと録音したこの音源はラフな良さがありつつも、まだまだ成長の余地を残しているので、同じ武蔵美仲間であるバスクのスポーツ/BOMBORIの神谷峻輔、坂下ひかりがギターとドラムで参加した曲のような編成での展開も期待したいところ。

柴田聡子『海へ行こうか』
2012年に発表されたファースト・アルバム『しばたさとこ島』はいまもよくCDデッキに乗せる一枚。奇天烈でも狙っているわけでもないのに、存在感の大きさを感じさせるさりげない歌に日々ヤラれてしまっています。山本精一さんら多くの先輩ミュージシャンも〈柴田さんはすごい!〉と唸らせてしまう彼女ですが、この最新EPはカセットMTRで録音した5曲と、同じ曲目/曲順ながらデジタル録音した5曲とを合わせた企画大賞的な一枚。こういうアイデアをおもしろがるウィットに富んだセンスがいいですね。おっと、こちら柴田さんも武蔵美~芸大へと駒を進めた〈はぐれエリート・アーティスト〉なのでした。

sei and music『せいみゅー』
ギタリストの田中淳一郎とのユニット=ju seiのヴォーカリストとして静かな人気を集めているseiさんがソロでCDデビューしました。彼女の歌が魅力的なのは1曲のなかでも表情が静かに変わるところ。ちゃんと向き合って聴いているとメロディーやコードの展開に応じて歌い方も少しずつ変化させていることに気付くのです。そんな特徴を活かした作品がこのデビュー作。中川理沙(ザ・なつやすみバンド他)、牧野琢磨(NRQ、湯浅湾)、三沢洋紀、上野茂都、井上智恵、倉地久美夫、細馬宏通(かえる目)、植野隆司(Tenniscoats)、宇波拓(HOSE)、稲田誠(ブラジル、PAAP、AURORA、Suspiria)ら錚々たる面々が手掛けた曲を一つずつ丁寧に歌っています。プロデューサーの會田洋平(core of bells)がこれだけのヴォリュームある曲をよくまとめたなあと感心してしまいます。2013年のプロデューサー大賞はぜひとも會田洋平に(笑)!

そういやBabiちゃんは昭和音大出身、よださんや柴田さんは武蔵美だし……音大/美大系のアーティストにおもしろい才能が増えている印象です。ここでは紹介しそびれてしまいましたが、『おおグリーン』をリリースした東京芸大出身の富山優子さんなんていうのも目覚ましい活躍が期待できそうな逸材ですよ。2014年、あなたも裏街道から女の子アーティストの原石を見つけてみてくださいね。