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持田保『INDUSTRIAL MUSIC FOR INDUSTRIAL PEOPLE!!!』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2014/01/14   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text : 畠中実


「インダストリアル」という美学、そして思想

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「インダストリアル」という言葉、あるいはそのスタイルは、それ以後に続くある種の音楽観の形成において、さまざまにその表れを変化させながらも、脈々とその遺伝子を継承させている。大げさに聞こえるかもしれないが、それは「アンビエント」と同様、音楽形式にだけではない、さまざまな芸術、文化一般に適応可能な、ひとつの思想と言ってもいいのかもしれない。「死の工場からの音楽」を標榜した「工業産業従事者のための工業産業音楽」に端を発する、インダストリアル・ミュージックとその子々孫々にいたるまで、あるいはさらに歴史を遡り、オリジネイターとしてのアヴァンギャルドたちが、この本の最初から最後まで、まさに「雑音だらけ」の一冊に凝縮されている。

それはイタリア未来派のルッソロが「雑音芸術未来派宣言」を発した1913年から、連綿と響き続けている残響と言ってもよい。またそれは、当のインダストリアル・ミュージックが登場したことによって過去と現在がリンクし、共鳴し合う、さまざまな結節点を形作ることにもなったのだと思う。20世紀という工業化、 産業化の時代が、雑音を発見させ、ルッソロが謳ったように、それはついに人間の感性の上位に君臨することになった。

構成は、1976年に設立されたインダストリアル・レコーズのスロッビング・グリッスル、キャバレー・ヴォルテールに始まり、より実験的に、より(反)社会的に、そしてよりエレクトロニカルにダンサブルに、よりエクストリームに展開するその変遷をたどりながら、日本独自の展開をみせたジャパノイズまで、ビフォア&アフター・インダストリアルを網羅したものだ。

また、著者のバイヤーとしての視点も非常に興味深く正しい。ここに掲載されている作品は、入手が容易なものだけではなく、現在では入手困難なレア盤までがセレクトされているという。たしかにディスクガイドの効能とは、探し出し、結びつけ、自分自身の体系を作るべく読み倒されるものであるから。