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Keith Jarrett『No End』『Concerts: Bregenz/München』

カテゴリ
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公開
2014/01/16   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text : 渡辺 亨


積み重なる時〜開放された空間

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「ポリリズムの円環」──キース・ジャレットの『No End』に勝手に副題を付けるとするなら、このようになる。『No End』は、86年にキースが自宅スタジオで録音した未発表音源集。エレクトリック・ギター、エレクトリック・ベース、ドラムス、タブラ、パーカッション、ヴォイス、ピアノを、一人でオーバーダビングして作り上げた音源を2枚のCDに収めたものだ。キースの一人多重録音アルバムといえば、脱力した歌まで披露する『Restoration Ruin』(68年)と、18種類もの楽器を一人で演奏した『Sprits』(85年)がある。クラシックやジャズから距離を置き、音楽的ベクトルを非西洋に向けたアルバムという点において、『No End』は『Sprits』と繋がっているが、音楽そのものはかなり違う。

キースの自筆ライナーノーツによると、彼は昔からエレクトリック・ギターに魅了されてきたとのことだが、『No End』の主役は、エキゾチックなフレーズを紡ぎ出すエレクトリック・ギターと、延々と繰り広げられるポリリズム。北アフリカや中近東の音楽の要素も随所に見出せる。あえてブライアン・ジョーンズを引き合いに出したい。ブライアンはモロッコのジャジューカの演奏を録音したアルバムを残したが、キースと彼は同い年(42年生まれ)。さらにブライアンは、マルチ器楽奏者だった。そんなブライアンの霊魂が乗り移ったとまでは言わないが、『No End』でのキースは、彼なりの「砂漠のブルース」を奏でている。

一方、『Concerts Bregenz/München』は、81年5月と6月にブレゲンツとミュンヘンで行われたソロ・ コンサートの音源を収録した3枚組アルバム。初CD化されたミュンヘン公演の音源の中には、即興演奏に加えて、フランスの短編映画のために書かれた《Mon Coeur Est Rouge》と牧歌的な叙情にあふれた名曲《Heartland》が含まれている。『No End』とはまったく対照的なアルバム。ただし、ヒッピー世代らしい世界観が伝わってくるという意味では、《Heartland》と『No End』は結びついていると思う。



LIVE INFORMATION


『キース・ジャレット・ソロ 2014』

○4/30(水)19:00開演 
○5/6(火・祝)19:00開演
会場:Bunkamuraオーチャードホール

○5/3(土・祝)19:00開演
会場:大阪・フェスティバルホール

http://www.koinumamusic.com/