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映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』

カテゴリ
o-cha-no-ma CINEMA
公開
2014/03/12   15:00
ソース
intoxicate vol.108(2014年2月20日発行号)
テキスト
text : 佐藤由美


Cinema01_A1
©Prince Production



正義のまなざしが伝える、力強い映像と音楽のコラージュ

かつてのレジスタンス闘士で、世界人権宣言の起草にも携わった、ステファン・エセル(1917―2013)の死から1年。命日の2日後に公開されるこの作品は、氏が最晩年に発表した冊子に触発されて誕生した。現代人へ向けて放った鋭くも簡潔な氏のメッセージを、力強い映像と音楽のコラージュで描き上げたのは、トニー・ガトリフ監督だ。

『ラッチョ・ドローム』『ガッジョ・ディーロ』『ベンゴ』のジプシー3部作はじめ、『愛より強い旅』『トランシルヴァニア』等の代表作をもつガトリフ監督。父親がアルジェリア人、母親がアンダルシアのジプシーで、自身、アルジェ生まれのガトリフが、故郷の独立に少なからず関わったエセルへ共感を寄せるのは、当然だろう。それにも増して、不当に抑圧されてきた者たちや移民に対する人道的な姿勢とポジティヴなまなざし、社会の不正・不公平に対する真っ当な怒り…今もっとも世界が必要としている、無関心への批判が、ガトリフを突き動かしたに違いない。

「私はスクリーンにスローガンを書き込みたかった」と監督が語っているごとく、作品には壁面や看板、垂れ幕と、複数言語で綴られた抗議文がちりばめられ、エセルの遺した示唆に富む言葉とともに、繰り返し映し出される。

ドキュメンタリー映像の中に、そっと人間ドラマを溶かし込んだような構成…自然な設定を、みごと表現できたのは、ガトリフの信頼度ゆえ! ちなみに原題は、スペイン語の『インディグナドス』。“怒れる者たち”の意だ。



Cinema01_A2
©Prince Production



少女はアフリカ大陸から海を渡り、対岸へと辿り着いた。波打ち際に漂うスニーカーや革靴…おそらく、波間に消えた命もあったのだろう。何者からか追われるように林を走り抜け、麦畑でようやく息をつく少女。その先で遭遇する光景は、線路脇に所狭しと並ぶ仮の寝床。港の内と外は有刺鉄線つきの鉄柵で隔てられ、まるで自由と抑圧の境目のようだ。言葉を解さない少女は、アテネで警察に拘束されてしまう。拘置所には、さまざまな出自の密航者が収監されていた。より良い暮らしを求め、金を稼ぐために危険を冒し、海を越えてきた彼らに、希望はあるのか。

ギリシャ、フランス、スペインと、少女の不安定な移動は続く。涙、憤怒と抗議の声…そして、団結行動がもたらす共鳴と歓喜の嵐! カメラは2011年のバスチーユ広場の群衆を、アテネを、国民の60%が支持し58都市で展開された「15-M(キンセ・エメ)」運動、マドリード行進のオリジナル映像を、圧倒的な迫力で観る者に提供する。

ガトリフは、ウォロフ語話者の少女を導き手としながら、社会の現実を伝える。結果「アラブの春」や「15-M」が、何をもたらしたのか?…だと!? 「デモはテロ」発言を許すような諦観や無関心が、いかに罪深い無知であることか…愛国心の前に人権教育こそ、必須であろう。



映画『怒れ!憤れ!-ステファン・エセルの遺言-』


監督:トニー・ガトリフ 
原案:ステファン・エセル著「怒れ!憤れ!」
(日経BP刊)よりの自由な翻案による
撮影:コリン・オウベン
編集:ステファニー・ペデラク
出演:ベティ
配給:ムヴィオラ
(2012年 フランス)

◎3/1(土)よりK’s cinemaほか全国順次公開!
http://www.moviola.jp/dofun/