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インタビュー

エレクトリックギュインズ

テーマは〈恋〉。ひとまわりしてスタンダードを追求する大阪のロックバンド


エレクトリックギュインズ、左から安達聡、前田栄達、田中正道、安田拓生

  いきなりこんな話をしてしまうのもなんだが、エレクトリックギュインズのリーダー、前田栄達に今回インタビューをしてみて思ったのは、〈年齢を重ねることの強さ〉ということだ。それは取材中何度も繰り返された、自虐的なようで実は相手の懐にずかずかと踏み込んでくる「33歳だからね(笑)」という前田の言葉から感じたことだった。大体においてその発言がエクスキューズのために使われたものではないということは、3月4日に発売される彼らのニュー・アルバム『恋するギュインズ』を聴けばわかるはずだ。

  「音楽ってリスナーとのコミュニケーションじゃないですか。今回のアルバムが3枚目なんですけど、作っているときに『みんなどう曲を聴きたいんだ?』っていうことを考え出したんです。音楽って結局、他人から見えることが全てじゃないですか。だから、人からどう見られるかっていうのを全部受け入れる度量がないとバンドなんてやってちゃダメだと思って」(前田栄達、ヴォーカル/ギター)。

 なんだか悟りを開いたインドの行者にでも話を訊いた気分だが、この言葉から見えてくるものは、自分たちの立ち位置を見据えた上で音楽を続けていくことに対する前田の覚悟だ。そもそも、彼がここまでの覚悟を持つようになった経緯を理解してもらうためには、バンドが現在のスタイルに落ち着くまでの背景を語る必要がある。

  「元々僕らはジャーマン・ロックみたいなサイケデリックなジャム・バンドをやっていたんです。誰にも知られずに実験みたいなことを大阪のバーで4年くらい。だからCDを作るまでは全然別のバンドでしたね。一方で、元々弾き語りで曲も作っていて、そっちのほうが周りの評判が良くて。僕らは地下の深いところで活動していたから、上界との接点を探ってたら今みたいな感じになって。未だに葛藤はあるんですよ(笑)。その辺が『音楽性が定まらない』って言われる理由なんでしょうけど」。

 文字通りの地下活動を経てバンドがたどり着いたのは、わかりやすくて抜けがいいバンド・サウンドだった。1曲目“ゆるりとカーブ”では、バブルガム・ポップにも通じる痛快さや即効性がある。“連れていく”“ブライダル”のようなシンプルな楽曲では、内省に一滴のアイロニーが込められている。そして、彼らの同朋ANATAKIKOUとリトルハヤタのメンバーが参加している“恋するギュインズ”は、アルバムのハイライト。〈似非フランス語〉で男女が愛を語りあうというなんとも奇妙な曲だが、サイケとブルースを混ぜ合わせて関西フレーヴァーをまぶしたような大仰さが妙に後を引く。これらの楽曲に通じるアルバムのテーマはタイトルにも付けられているように〈恋〉なのだと言う。

  「今回はとりあえず切ないものを作ったんです。CDを聴いて、思いに耽って欲しいんですよ。恋っていうのはスタンダードなものじゃないですか。ふざけた言い方なんですけど、携帯電話で〈恋する〉を変換すると〈スタンダード〉って出てくるみたいな。それくらい普遍的なものだから。自分にとってスタンダードなものっていう意味を込めて『恋するギュインズ』というタイトルを付けたんです。その過程でコーラスが必要だったんですよ。作った後でなんか全部の曲で『フーフー』言ってんなぁって思ったんですけど(笑)」。

 そんな彼らの音楽の根底には〈大阪のバンドである〉という自負、あるいは誇りのようなものがある。前出の〈他人から見えることが全て〉という確信的な発言の裏には、そのアイデンティティである〈大阪〉が揺るぎないものであるという自信が常にあるからではないだろうか。

  「箱(ライヴハウス)が醸し出すマニアックな個性っていうのはあると思いますね。今だったら梅田ハードレインと十三ファンダンゴを一本の線で結んだエリアが持っている空気感なんかは大阪にしかないものですよ。〈シーン〉っていう言葉を使うとみんなは『ない』っていうと思うんですけど、間接的な影響はお互いに与え合っていると思います。僕らのCDは万能じゃないから、どんなところにでも適した音楽じゃないけど、僕らが持っていない音楽性を持っているアーティストと一緒に、ないところを補い合いながら大きな渦を作っていきたいですね。それがシーンと言われようが言われまいが、どっちでもいいんですよ。東京で活動すること? 今は考えていないです。僕らは大阪のバンドですから」。

エレクトリックギュインズ『恋するギュインズ』
01. ゆるりとカーブ(試聴する♪
02. すなわちボイン
03. 連れていく
04. 只今恋愛系
05. マウイ・シアター
06. ブライダル
07. キレイなヒト、やさしいヒト(試聴する♪
08. 恋するギュインズ
09. あたらしい歌
10. エバーグリーン
11. 誰もしらない(試聴する♪

カテゴリ : ニューフェイズ

掲載: 2005年03月03日 14:00

更新: 2005年03月03日 18:47

文/ヤング係長