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インタビュー

NICE NICE 『Extra Wow』

 

オレゴンから愛!!! この精緻なミニマリズムと圧倒的なダイナミズムを、この容赦ないポートランド・エクスペリメントを受け止める心の準備はできてるか!?

 

 

2人でもできる

いま、USのオルタナティヴなロック・シーンで、ブルックリンと並んで注目を集める街、ポートランド。個性豊かなミュージシャンがひしめき合うなかで、ブルックリンでバトルズを発掘したUKのレーベル、ワープが目をつけたのが、〈西海岸最強のライヴ・バンド〉として注目を集めていた二人組、ナイス・ナイスだ。ジェイソン・ビューラー(ギター/キーボード/ヴォーカル/エレクトロニクス他)とマーク・シラジ(ドラムス/エレクトロニクス他)が初めて出会ったのは高校の頃。ロック好きのジェイソンとジャズ好きのマークは、高校でジャズのサークルを通じて仲良くなった。

「バンドを結成したのは大学を卒業した後、いまから10年くらい前のことだよ。その頃、ループ・ペダルを使えばデュオでもやりたいことができるってことを発見して、それが僕らを一気に解放してくれたんだ。2人ともインスト中心の経験を積んできていたから、自然とインストのサウンドになっていった。最初の1年は即興を中心にして、いろんな音楽をプレイしたんだ。僕らはノイジーなエクスペリメンタル・ミュージックが好きだし、ファンキーなエレクトロニック・ヒップホップも聴いていた。二人ともいろんなスタイルの音楽を演奏できたから、二人の音楽的ボキャブラリーを掛け合わせれば、さらに深いところまで音楽を探究できると思ったんだ」(ジェイソン・ビューラー:以下同)。

とはいうものの、大学卒業後、ジェイソンは音楽活動をやめて、NYで就職活動をしようと思っていたらしい。ところが、ある日、レコード屋を回って買った10枚のレコードを聴いて、「その素晴らしさに圧倒されて音楽を続けたいと思った」とか。その10枚というのが、「全部は覚えてないけど、ワープの作品がいくつかあったよ。スクエアプッシャー『Music Is Rotted One Note』や、オウテカがノイ!のリミックスをした12インチ『Splitrmx12』とかね。あとはサイエンティストの『Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires』、BOREDOMSの『Vision Creation Newsun』――とにかく、それらはナイス・ナイスの初期から現在に至るまでに大きな影響を与えているんだ」。そんな話を訊くと、彼らとワープの出会いは必然だったと思えてくる。そして、晴れてワープと契約を結んだ彼らが、じっくりと時間をかけて作り上げたのが新作『Extra Wow』だ。

「レコーディングを始めた当初は、ライヴで演奏していた素材を集めて、僕らのライヴをそのまま表現したような作品にしようと思ってた。これまでリリースした作品も、ほとんどライヴ・レコーディングで即興だったしね。でも1年くらいレコーディングして、もう少しで完成っていう時にコンピューターがクラッシュしてしまって。録り貯めていた音源をすべて失ってしまったんだ。その後に車が盗まれたりもして、最悪の一週間だったよ(笑)」。

 

新しい音楽

二人は仕方なく新しいレコーディング・システムを組み直して、いちからやり直すことに。でも、この最悪なアクシデントが新作の思わぬ突破口になった。

「最初のうちは、前と同じようにレコーディングしてたんだけど、新しいレコーディング・システムを試していくうちに、曲が自分の意思を持ち始めたみたいに少しずつ変化していったんだ。つまりレコーディングのプロセスがアルバムの内容に影響を与えはじめた。自然な感じでね。その結果、それぞれの楽曲に、より強烈で、トライバルで、サイケデリックなフィーリングが生まれてきた。予想外のことだったけど、アルバム全体に一貫した雰囲気が生まれたんだ」。

ライヴや即興から生じる偶発性を大切にしてきた彼らだからこそ、事故というアクシデントさえアルバムに取り込むことができたのかもしれない。アルバムがスタートすると、マークが叩き出す強烈なビートに導かれて、エレクトロニックの輝き、ノイズの混沌、民族音楽のエキゾティシズムが渦を巻き、熱狂的なグルーヴを生み出していく。そこから生まれる壮大なサウンドスケープはデュオとは思えない迫力だ。

「とにかく、サウンド全体がさまざまなカラーやテクスチャーを備えていて、聴いていて我を失ってしまうようなサウンドにしたかったんだ。これは直接的で、ビッグで、圧倒的なサウンドの波なんだ。楽器もたくさん使ったよ。電子系の楽器も新しいものが増えたし、僕の両親が休暇で中国へ行った時に買ってきてくれたフルートみたいな楽器も使った。同じ時期に友達にハープをもらったから、フルートとハープをベースにした曲も作ったんだ。とにかく、完成したサウンドには満足してる」。

レコーディング中には、BOREDOMSやギャング・ギャング・ダンス、ライトニング・ボルト、ノイ!なんかを聴いていたらしいが、彼らが新作で辿り着いたサウンドは、彼らの音楽的遺伝子に眠るルーツを解放しつつ、新たな方向性を切り拓くもの。そして、その背景には、ライヴを重視することで培われた自由奔放なセッション能力と、それを支える二人の強い絆がある。

「ライヴ、即興、そして、実験が僕らにチャンスを与えてくれるんだ。今回のアルバムでは初めて本格的にヴォーカルに挑戦したんだけど、けっこう楽しかったから、これからも磨いていこうと思ってる。でも、ヴォーカリストを入れるつもりはないよ。僕らはデュオでうまくいってるし、僕ら二人の間には何かナチュラルなケミストリーが存在するからね」。

ポートランドという豊潤なシーンで育ったナイスな二人が、二人三脚で世界へ向けて踏み出したナイスな一歩、それが『Extra Wow』なのだ。最後にジェイソンは日本のリスナーにこんなメッセージを送ってくれた。

「このレコードを気に入ってくれると嬉しいし、ぜひライヴも見に来てほしいな。そこでは、二人の男が新しい音楽を作り出そうとしているということを実感できると思うからね」。

その〈新しい音楽〉は、間違いなくアルバムにも脈打っている。

 

▼ジェイソンを圧倒した作品を一部紹介。

左から、スクエアプッシャーの98年作『Music Is Rotted One Note』(Warp)、サイエンティストの81年作『Rids The World Of The Evil Curse Of The Vampires』(Greensleeves)

 

▼ワープ以前のナイスぶりが確認できる作品を一部紹介。

左から、ナイス・ナイスの2003年作『Chrome』(Temporary Residence)、2003年のコンピ『Paws Across The World 2003』(Tigerbeat6)、ナイス・ナイス&セックスの楽曲を収録した2006年のコンピ『Thankful』(Temporary Residence)

 

▼ナイス・ナイスのレコーディングに作用したかもしれない作品。

左から、ギャング・ギャング・ダンスの2008年作『Saint Dymphna』(The Social Registry)、ライトニング・ボルトの2009年作『Earthly Delights』(Load)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年03月04日 20:00

更新: 2010年03月04日 20:02

ソース: bounce 318号 (2010年2月25日発行)

インタヴュー・文/村尾泰郎