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インタビュー

YEASAYER 『Odd Blood』

 

Yeasayer -A1

 

個性豊かなバンドが次々と登場して、混沌とした熱気が渦巻くブルックリン。そんななかで、アニマル・コレクティヴのように秘境めいていて、MGMTみたいにサイケデリックな3人組、イェーセイヤーは、まさにブルックリン・シーンの申し子だ。アンダーグラウンドな匂いに満ちたファースト・アルバム『All Hour Cymbals』から一転、最新作『Odd Blood』では眩いばかりのポップセンスが炸裂している。

「前作とは違うタイプの作品を作りたかったんだ。新しいサウンドに挑戦して、自分たちだけのサウンドを生み出したかった。たとえばエクスペリメンタルとポップの中間みたいな感じかな。俺たちは実験的なバンドだけど、ビートルズやマイケル・ジャクソンにも影響を受けているし、今回はそういった部分を出していこうと思ったんだ」(クリス・キーティング:以下同)。

レコーディング環境の変化も新しいサウンドの探求に役立ったようだ。前作はクリス宅の地下室でのレコーディングだったが、今回はUKの老舗レーベル、ミュートに移籍したこともあって、機材の揃ったスタジオで時間をかけて制作されたという。

「ウッドストックにあるスタジオにこもって、3か月かけてレコーディングしたんだ。ある有名なドラマーがやっているスタジオなんだけど、いろんな楽器や機材が置いてあって、それを自由に使わせてもらえたのはラッキーだった。前作の時は機材はそんなになくてさ、その違いは大きいよ。とにかく、今回は使えるテクノロジーを片っ端から使いまくったんだ。音がおもしろく聴こえさえすれば、使うものは何だってよかった。そもそも、俺たちは普通の使い方さえ知らないしね(笑)」。

まるでオモチャを与えられた子供みたいに夢中になって、スタジオ・ワークを駆使して作り上げられた本作は、シンセやサンプリングを多用した煌びやかなサウンドが印象的。その結果、前作以上にメロディーやハーモニーが際立っていて、音のカラフルさが一段と増した気がする。

「サウンドがクリアになるように心掛けたから、そのぶんヴォーカルやメロディーが聴き取りやすくなったんじゃないかな。ソングライティングにも重点を置いたしね。それに俺たちはさまざまなダンス・ミュージックのプロダクションに影響を受けてるから、そこにヒネリを加えて独自のポップ・サウンドを作りたいと思ったんだ」。

確かにヘヴィーでダンサブルなビートがアルバムに躍動感を与えている。さらにモロッコのダンス・ミュージックにインスパイアされた“Room”やインド音楽の旋律を忍び込ませた“Strange Reunion”、あるいはブラジリアン・ファンクな“O.N.E.”などトライバルな要素と、80'sっぽいシンセの音色が融合して、無国籍でストレンジなアルバムに仕上がっている。でも、そのユニークなサウンドのレシピは本人たちにもわからないらしく、すべては自然の成り行き任せだったとか。

「曲作りのアプローチは毎回違うんだよ。メンバーそれぞれがアイデアを持ち寄ることもあれば、3人で部屋にこもっていっしょに演奏してみる時もある。自分たちでも曲作りのアプローチがわかっていなくて、いつもメチャクチャなんだ(笑)。でも、決まったルールで作られる曲って、結局はおもしろくないと思うね。曲作りには公式や計画表なんて必要ない。自然に任せたほうがいいんだよ。だから俺たちはいつもナイーヴであることを心掛けている。子供のような心や好奇心を持ってるほうが良い作品が出来るんだ。何が起こるかわからないなかで作業するほうがずっと楽しいしね」。

直感と好奇心、それがイェーセイヤーのマジックなのかもしれない。この夏には〈フジロック〉での初来日が決まった彼ら。クリスいわく「俺の親友がアメリカ人と日本人のハーフで、ずっと日本の文化に憧れてたんだ。だから日本に行くのはマジで楽しみ!」と興奮気味だ。こっちもマジで楽しみにしてますから。

 

PROFILE/イェーセイヤー

クリス・キーティング(ヴォーカル/キーボード)、アナンド・ワイルダー(ギター/キーボード)、アイラ・ウルフ・トゥートン(ベース)を基本メンバーとする不定型バンド。2006年にブルックリンで結成され、翌年にウィー・アー・フリーからシングル“2080”でデビュー。同年にファースト・アルバム『All Hour Cymbals』をリリースし、〈SXSW〉出演も相まって注目を集めていく。以降はシングルを発表しながらゴールドフラップのリミックスやコンピ『Dark Was The Night』への参加などでも支持層を拡げ、今年に入ってミュートと契約。〈フジロック〉出演決定も話題となるなか、ニュー・アルバム『Odd Blood』(Secretly Canadian/Mute/BEAT)の日本盤をリリースしたばかり。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2010年06月05日 23:45

更新: 2010年06月05日 23:45

ソース: bounce 321号 (2010年5月25日発行)

インタヴュー・文/村尾泰郎

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