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インタビュー

Base Ball Bear 『新呼吸』



この1年に起こったさまざまな心境の変化が助力し、完成した新作。今年結成10年を迎えてみずからに課した高いハードルを越え、彼らは新たな呼吸を始める

 

 

ハードルが高かった

先行シングルになった“short hair”は17時で、“Tabibito In The Dark”は19時、そして“yoakemae”は28時——それはいったい何のことかというと、各々の楽曲のモチーフとなる時間のこと。Base Ball Bearの4作目となるニュー・アルバム『新呼吸』は、朝4時から始まり翌日の朝5時で終わる、明確なテーマを持ったコンセプト・アルバムだ。

「前のアルバムを作ってる時に、毎日〈朝から朝まで〉みたいな感じでレコーディングしていて、そこで自分の感じているタイム感を曲にしたらおもしろいんじゃないかと思ったんですよ。まず先に時間を決めて、曲はないけどサウンドのイメージだけを書いていって、ある程度の縛りを作っちゃったんですよね。後々その縛りがどんどん大変なことになっていったんですけど(笑)」(小出祐介、ヴォーカル/ギター:以下同)。

何が大変だったかを語ってもらうその前に、本作に至るBase Ball Bearのヒストリーをおさらいしておきたい。ニューウェイヴやオルタナの感覚を内に秘めつつ、あくまでわかりやすいポップ感覚で勝負するロック・バンドとして登場した彼らは、玉井健二(agehasprings)のプロデュースによる一連の作品を経て、昨年2枚同時にリリースした〈3.5枚目〉となる『CYPRESS GIRLS』『DETECTIVE BOYS』でターニングポイントを迎える。小出いわく〈公開プリプロ〉という、あえてリハーサル・スタジオでの録音を敢行したこの2作品は、いわば今作の序章にあたるアルバムだった。

「3枚目までは、プロデューサーの力も借りてどんどん曲を洗練させていく過程だったと思うんですけど、洗練という作業が〈イイとこ取り〉に思えてしまう時があったし、別の血が混じってるという感覚もあったんですよね。あれはあれで大好きなんですけど、自分がめざしたいところに行くには自分で踏ん張らなきゃいけないから、あえて洗練させない作品を作ろうとしたのが3.5枚目のアルバム。それを経て今回のアルバムに繋がるというプランを公言していたから、余計にハードルが高かったんですけどね」。

そして始まった『新呼吸』のための曲作り。それは単なるアルバム制作の域を超え、小出祐介がみずからの内面を探る旅になっていく。

「〈この時間のテーマソングを作る〉ということで始めたんですけど、曲がただのストーリーテリングになっていくというか、自分とは関係のない、時間に引っ張られた曲しかできないんですよ。それで行き詰まっちゃったんですけど、“yoakemae”をきっかけに〈もっと自分がそこにいる感じを書いていかなきゃいけないんだ〉と思って、自分の日常を自分で観察する毎日になっていったら、どんどん自分の精神状態の観察に入っていって。それが今度は自分の人生観の観察になって、一周巡って自分の日常の観察になっていく。そういう思考のサイクルを、時間をかけて経験したことがすごく大きかったと思います。自分のインナーの出来事と外で起きていることとの折り合いを付けることが重なっていた1年だったんですよね」。

 

どんどん明日に向かっていく

外で起きていること、というのは言うまでもなく3月11日に起きた東日本大震災のことを指す。それがどのように自分の内面に影響したのかは、「まだ答えは出ていない」と言うが、大きなきっかけになったことは間違いない。

「TVに出ている人のコメントで〈早く元の日常に戻れるように〉というのが多くて、そこにすごい違和感があったんです。〈ちょっと待って、そもそも元の日常ってなに?〉って。僕の感覚では、日常=平穏な毎日ということではなくて、常に更新されていくものだと思っていたから、それについてずっと考えてたんですよ。そこで思ったのが、やっぱり〈元の日常〉というものはないし、常に新しい日常へ向かっていくしかないということがひとつ。もうひとつは、〈日常=平穏、平坦〉という考え方があるとしたら、確かに自分の毎日はほとんど平坦だなと思ったんですね。音楽の仕事は煌びやかなものだと思っている人もいるだろうけど、平坦な毎日というのは普通の人と変わらないし、〈あー、今日はいい結果が出たな〉と思う日なんて滅多にない(笑)。でもいつか結果が出ると思ってやっている。それは平坦な毎日の積み重ねの先にあるものだなと思えたんですよね、やっと。僕はもともと根がネガティヴで、人生はいつか終わるものだから、〈毎日は無駄に吐き捨てるものだ〉とか思ってたんだけど、そうではなくて〈毎日が始まり続けているだけなんだ〉という発想に180度スコーンと変わった瞬間が今回ありました。それが『新呼吸』というタイトルに繋がっていくんですよね」。

さらにもうひとつの動機として、大好きだった祖父がこの夏に亡くなったことを彼は挙げる。余命10日の祖父に〈常に仕事を優先させなさい〉と諭されたことは、本作を作るために考え続けてきた日常感や人生観に、少なからぬ影響を与えているという。

「すごい働き者のおじいちゃんだったんですけど、最後まで仕事の話をして、明日の話をずーっとしてるんですよね。それがすごいカッコイイなと思ったし、ちゃんと生き続けてきた人ってそういうものなんだなと、いろいろ思うことはありました。今回のアルバムの歌詞は、前半は過去の話が多いんですけど、中盤からどんどん明日に向かっていくという流れになっているのは、そうしなきゃいけないと思ったからなんです。そうやって、最初は24時間のなかでループさせようと思っていたアルバムが、制作しているうちにループから抜け出す形になっていったのがすごく嬉しかった。ハードルは高かったけど、最終的にはそれを超えられて、自分が思っていた形になったと思います」。

キャッチーな歌ものギター・ポップ・バンドとして、メロディーの良さは相変わらず一級品。さらに〈NO同期、NOシンセ〉を掲げ、生音のみで打ち込み並みの正確なグルーヴを作り上げるなど、細部に凝りまくったサウンド作りの妙技はさらに深まった。そこに、これまででもっとも強く心に沁み入る歌詞の世界観が加わり、もう言うことはない。今年で結成10年という節目を迎え、Base Ball Bearはさらにスケールの大きなバンドへ確実に進化を遂げた。

 

▼関連盤を紹介。

左から、Base Ball Bearが参加したiLLの2010年のコラボ・アルバム『∀』(キューン)、小出の作詞楽曲が収録された南波志帆の2011年作『水色ジェネレーション』(ポニーキャニオン)

 

 

▼『新呼吸』の先行シングルを紹介。

左から、“yoakemae”“short hair ”『Tabibito In The Dark / スローモーションをもう一度 part.2』(すべてEMI Music Japan)

掲載: 2011年11月09日 17:59

更新: 2011年11月09日 17:59

ソース: bounce 337号 (2011年10月25日発行号)

インタヴュー・文/宮本英夫