killing Boy『Destroying beauty』
[ interview ]
木下理樹(ヴォーカル/ギター/シンセサイザー)と日向秀和(ベース)によって結成されたkilling Boyを〈木下と日向のユニット〉と呼ぶことは、もはや語弊があるとすら言っていいだろう。ファースト・アルバム『killing Boy』を発表し、ライヴを重ねた彼らは伊東真一(ギター)や大喜多崇規(ドラムス)も横並びの、まさに〈バンド〉となった。
そんなムードをそのまま詰め込んだニュー・アルバム『Destroying beauty』で、木下がもうひとつ徹底的にこだわったのが音質である。良くも悪くも録音技術が進化したことによって起こった、ロック・バンドの音の均質化に危機感を感じた彼は、本作(と、今後リリースされる予定のART-SCHOOLの次回作)でそこに警鐘を鳴らし、〈本当にいい音とは?〉という問いを投げかけている。リスナーはもちろん、若いミュージシャンにもぜひじっくりと読んでほしいインタヴューだ。
録音へのこだわりを追求する
ーー前作は〈こういうものを作ろう〉というアイデアがまずあって作られた作品だったと思うのですが、今回はバンド感がはっきりと増していて、アイデアはベースにありつつも、より自由に〈カッコイイものを作ろう〉という意識になっているように感じました。
「そうですね。ファーストはまだライヴをする前に4人でスタジオに入ってずっと作ってたものだったので、それが出てからツアーやライヴをやっていくなかでよりバンド感は増しますよね。自然な流れだと思います」
ーー曲の作り方もセッション感が強まってるんですか?
「強くなってると思います。ファーストはもともと僕がソロでやろうと思ってたから、それ用に作った曲もあって、分離感がちょっとあったと思うんですけど、今回はそれがないですよね。ホントにセッションで作ったんで」
ーーでは、そのバンド感にプラスして、作品としての青写真はありましたか?
「killing Boyのレコーディング前に、(ART-SCHOOLで)エレクトリカル・オーディオ・スタジオ(スティーヴ・アルビニが運営するシカゴのスタジオ)へ行くことが決まったんです。そこからモチヴェーションがガッと上がって、録音へのこだわりを追求しようと思って」
ーーそれは特にどんな部分ですか?
「僕がずっと某誌でレヴューを書いていて、そこで若いロック・バンドの音源を毎月聴いていますが、例えば昔、ミッシェル(・ガン・エレファント)とかナンバーガール、スーパーカーとかって歌が入ってくる前でも(そのバンドの曲だと)わかったじゃないですか? でもいまってわかんないんですよ。なんでそうなってるのかっていうと、日本のスタジオはデッド(壁などによる反響のない音)にしたいのか、広げたい(反響のある音にしたい)のか、どっちを意図して作られたのかわからないスタジオが多くて、結局どっちでもない音作りになるから、音を稼ぐためにコンプレッサーをかけるわけです。そうなると、強弱がなくなって、均一になっちゃうんです。よくあるのは、歌とギターがガーッて鳴ってて、ドラムがすごい遠い。そういうのを聴いてると、〈わかんないなあ〉って思って。もちろんそうじゃなくて、こだわってるバンドもいるんですけど」
ーーkilling Boyは非常にデッドな音作りですよね。
「僕らほとんどコンプレッサーを挿んでないんですよ。歪みもそんなに使ってなくて、うねりのなかでダイナミズムとかラウドさを表現するっていうか」
ーー今回のアルバムだと、歪んでるのって“you and me, pills”ぐらいですかね?
「ホントそれぐらいですね。あとは中域を意識した音作りをするっていうこと。コンプレッサーって、ヴォーカルはやっぱり必要なんですよ。周波数的にかけないと。それ以外は特に必要ないんで、そういうのを追求したものになりましたね」
ーー録り音をしっかり作っておけば、コンプをかける必要がないわけですよね。“are you kidding me?”も、全然歪んでないけどダイナミズムがありますよね。
「そうですね。もっとこだわりがある人、マイ・ブラッディ・ヴァレンタインのケヴィン(・シールズ)なんて、コンプ禁止で『Loveless』録ってますからね。ノイジーにするために、安直にコンプをかけるっていうのはイヤだった。耳が疲れちゃうし、それがいい音だとは思えなくて。例えば、劇場に行って映画を90分とか120分観れるじゃないですか? でも音楽って、もちろん好きなバンドだったらともかく、なかなかそこまで堪能できるものってないし、特に若い人はそんなに聴いてるのかな?って思って。それは音楽の値段が下がるっていうんじゃなくて、音楽の価値が下がるように思っちゃって。やっぱりそれには抗いたいじゃないですか? じゃあ疲れない音作りをしようとか、顔が見える音のほうがおもしろいとか、〈ちょっとピッチ外れててもいいじゃん、機械じゃないんだから〉っていう。それを体現できるメンバーの信頼感とか技術力もあったから」
ーーまずそこがないとできないことでもありますもんね。
「うん、成り立たないは成り立たないんですけど、せっかくこういうメンバーに恵まれたんだから、そこはやっぱり追求しようと思いましたね」
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