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インタビュー

BOYS NOIZE 『Out Of The Black』



活躍する場を広げながらも足下は見失わず、流行にシンクロしながらも流されることはない! 破壊力を増して帰ってきた3度目のボーイズ・ノイズを食らえ!!



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「昔ほどアルバムってビッグなものじゃなくなってるよね。フル・アルバムを出していなくても、1曲ヒットすればそれで世界ツアーができるんだから。でも俺自身はアルバムという形態にまだ特別な感情を持っているんだ」。

そう語るのは、ハンブルグから世界中のダンスフロアに素晴らしい騒音を送り届けているエレクトロ・シーンの超大物、ボーイズ・ノイズことアレックス・リダ。楽曲単位で評価される世界にあって、いまなおアルバムというフォーマットに愛着を持っている彼が、実に3年ぶりとなるニュー・アルバム『Out Of The Black』を完成させた。ここ最近はより広いフィールドにおいてプロデューサーとしての多彩な仕事ぶりを目にすることも多かったわけだが、ボーイズ・ノイズとしての久々の新作というだけあって、やはりこれしかない!という安定感と、その上を行くプリミティヴなアイデアがガシガシに詰め込まれた痛快なアルバムに仕上がっている。



音楽を単純に楽しんでいた頃の自分

——アルバムの完成おめでとうございます。自分ではいまどんな気分ですか?

「ありがとう! 正直、今回のアルバムは自分が作りたいと思っていた作風に仕上がったからすごく満足しているよ。『Power』を出して以来、一人でレコーディングのアイデアを貯めていたからね」

——ボーイズノイズ・レコーズ(以下BNR)の作品やプロデュース仕事などが多かったとはいえ、前の『Power』が出てから少し間が空いたように思います。

「その間はチリー・ゴンザレスやスパンク・ロックとコラボしたり、新しい挑戦をしていたからね。友人らといろいろ試行錯誤して音楽を作るのは楽しかったけど、そろそろ自分の音楽を作りたいという意欲が高まって、去年の暮れから今年の始まりにかけてレコーディングをしたんだ」

——そういったプロデュース活動の経験から今回のアルバムにフィードバックされている部分は何でしょう?

「いい質問だね。プロデュースやコラボをしてから、自分のルーツによりいっそう強い繋がりを感じるようになったんだ。チリーからアルバム・プロデュースの話を持ちかけられたときはすごく嬉しかったよ。自分がいつもやっている音楽とはまったく違うジャンルで制作するのはとても新鮮な気分だった。ミスター・オワゾのようなクレイジーなミュージシャンと仕事をするのは楽しかったし、スパンク・ロックやサンティゴールドとのコラボも良かったね。彼らと作業をしているうちに、自分の音楽のためのアイデアがどんどん頭に浮かんできた」

——どんなアルバムにしたいというプランや具体的なテーマは事前にあったのでしょうか?

「そうだね、最近売れてる音楽……例えばアメリカン・ダブステップとか、メジャーでヒットしている曲はハードな要素の大きいものが多いだろ? それはそれでいいんだけど、時々音楽の魂とか生命力が感じられなくて恋しくなったりするんだ。だから一時期、自分が好きな音楽って何なのか、それだけを考えるようにしていた。そしたら、まだ何も知らない青二才として音楽を始めた頃の〈なんとなく好き〉って理由で単純に音楽を楽しんでいた自分が蘇ってきたんだ。今回のアルバム制作はそんなプロセスだった。だから『Out Of The Black』には1作目と2作目からの要素がミックスされているかもね」

——その1作目『Oi Oi Oi』や2作目『Power』をいまどう評価していますか?

「ここ数か月間、何回か聴き返してみたんだけど、『Oi Oi Oi』はとことん粗くてラフなんだよね。当時はあまりいい評価を貰わなかったけど、むしろ俺はそれが嬉しかった。理解されないアウトサイダーとして位置づけられるのは大歓迎だったのさ。『Power』はそのすぐ後に出したけど、反応はまた同じだった。数年前に出した作品を改めて聴くのはおもしろいよ」

——では、過去2作と比べて新作はどんなアルバムだと言えるでしょう?

「今回のアルバムを例えるなら、〈自分〉っていう高層ビルがあって、1階、2階、そして今回のサード・アルバムで3階まで登れたって感じかな。階段を上がったり下ったり、いろんな物を少しずつ運んだりしてるけど、結局はずっと同じビルの中なんだ。最上階に辿り着くにはまだまだ階段を登らなきゃいけないな(笑)」

——アルバムには未収録ですが、スヌープ・ドッグと“I'll House You”(ジャングル・ブラザーズのカヴァー)をやってましたね。

「彼の“Sexual Eruption”を3〜4年前ほど前にリミックスしたのがきっかけだったんだ。自分でTwitterアカウントを作って最初にしたのが、そのリミックスを聴いてほしいというスヌープ宛のツイートだったよ(笑)。そしたらすぐに本人から反応があって。それからオンラインでやりとりするようになって、今回は彼のLAの自宅で2曲録ったんだ。そのもう1曲は、日本盤のボーナス・トラックだよ。実はずっと前から〈スヌープと曲が作れたら引退できる〉って言ってたんだけど、想像以上に早く夢が叶ってしまった。大丈夫、まだ引退する予定はないよ(笑)」。



音楽はきれいすぎないほうがいい

——その“I'll House You”でのヒップ・ハウスもそうですが、今回の新作は、80sのエレクトロ・ファンクやアシッド・ハウス、ボム・スクワッド風のサンプリングなど、いろんなダンス・ミュージックのプリミティヴな部分を現代的に表現したアルバムのように思いました。

「それは意識的なことでもあるけど、単純に自分の好みが自然に出てくるんだと思う。あと、スタジオでは808とか303とか、当時の音を出せるような古い機材を使っているからね。アナログのマシーンを使うとトラックに命が吹き込まれる感じがする。もともと音楽に対してそういう姿勢でいたから、『Oi Oi Oi』の頃からオールド・スクールの要素やラフで粗い音が聴こえる。音楽はきれいすぎないほうがいい。最近クラブで聴けるトラックって機能的で予測可能なものが増えているけど、俺はちょっとズレている音楽がいいんだよ」

——では、昨今よくあるような、多彩なシンガーたちを起用したヴォーカル・トラックはやる気がなかった?

「過去にコラボしたアーティストに歌ってもらうアイデアも出たし、もちろん彼らに話を持ち込むこともできたけど、自分がやりたいと思ったこととはやっぱり違ったんだ。シンガーとやるとトラックが〈歌〉になるから、ライヴでどうパフォーマンスをすればいいのかわからなくなるんだ。だから俺の作品にはロボット・ヴォイスがたくさん入っているんだ。普通の人間の声よりそっちのほうがおもしろいだろ?」

——では、アルバムでいちばん気に入っている曲は?

「いつもコロコロ変わるけど、たいてい最後に仕上げたトラックがいちばん印象に残っている。だからいまは“Rocky 2”かな。とにかくハードでファンキーなトラックが作りたかったんだ。でもお気に入りは毎月のように変わるよ」

——エレクトロやEDMを下地に世界的な支持を得ているクリエイターは大勢いますが、そのなかであなたしか持っていないものは何でしょう?

「自分のことについて語るのは苦手なんだけど……(笑)他のクリエイターと違うのは、耳なのかな。他の誰かと似たような音楽を作ったって意味のないことだ。BNRのアーティストにも、いつも〈人が聴いてすぐに自分が作ったとわかるようなサウンドを追求しろ〉って言ってるよ」

——スクリレックスとのコラボなど、さまざまなプロジェクトを進行されていますね。今後の展望などを教えてください。

「いまはとにかくこれから始まるライヴに集中しなきゃいけないんだ。最近はDJとしての活動が多かったから、ライヴ・セットでどう見せるかが新しい挑戦だね。これがまたかなりキツいスケジュールで、日程表を見るだけで目眩がしてくるんだ……。だからまた当分の間、制作活動はお休みだろうな(笑)」



▼ボーイズ・ノイズの作品。

左から、2007年作『Oi Oi Oi』、2008年のリミックス・アルバム『Oi Oi Oi Remixed』、2009年作『Power』(すべてBoysnoize)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年10月03日 17:59

更新: 2012年10月03日 17:59

ソース: bounce 348号(2012年9月25日発行)

インタヴュー・文/出嶌孝次