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インタビュー

『SUPER VIEW』の近くにある〈SUPER VIEW〉な銀盤探検



アルバム先行で発表されていた“涙にあきたら”が、サイケやサンシャイン・ポップのエッセンスが混じり合ったスタイルの曲に仕上がっており、おやっ!?と思った。リズムは、東海岸のラヴィン・スプーンフルあたりを連想させる陽気なシャッフル系。陽気なのだけどどこか穏やかさを感じさせ、あえて耳をこらさなくても、彼ららしい捻くれたセンスも見受けられる。でもって全体的な感触としては、ビーチ・ボーイズの暗黒期と呼ばれていた60年代後期の作品を連想させたりもして。ひょっとしたらキリンジの新作は、このように60年代ポップス的なアプローチが結構見られたりするのでは?──といった予想はあながち外れていなかった。どれがそう、と明確に言えるわけではないけれど、『Begin』という大傑作1枚だけ残して解散した伝説のグループ、ミレニウムが奏でていたような音楽、フォーク・ロックとソフト・ロックとサイケデリック・ロックが渦巻き状になったサウンドのポップ・ソングが『SUPER VIEW』には多くある。グロッケンスピルの可愛らしい音色が耳に残る“TREKKING SONG”なんて、60年代ポップス的記号がさまざまに散りばめられたカラフルなナンバーで、本作の傾向を表している1曲といえよう。後半に置かれている“バターのように”のような奇妙な浮遊感を漂わせるコーラスをフィーチャーしたアコースティック・チューンでは、フリート・フォクシーズやボン・イヴェールらの音楽がいつも描き出す光や影を発見することも可能。なおフォーキー・タッチの曲では、ブリティッシュ・フォーク的な香りがふと鼻先を掠めることもある。そんなとき、そのシーンから登場した人気者、ドノヴァンの音楽が緩やかに重なり合ったりもした。最後に、メロウなムードに包まれたバラード“今日の歌”はアルバムでも屈指の美しさを誇る曲だが、ハース・マルティネスが書くようなレトロチックなメロディーラインがとにかく秀逸である。



▼関連盤を紹介。

ジャケは登場順に左から、ラヴィン・スプーンフルの65年作『Do You Believe In Magic?』(Sony)、ビーチ・ボーイズの67年作『Smiley Smile』(Capitol)、ミレニウムの68年作『Begin』(Sony)、フリート・フォクシーズの2011年作『Helplessness Blues』(Sub Pop)、ボン・イヴェールの2011年作『Bon Iver』(Hostess)、ドノヴァンの67年作『Mellow Yellow』(Epic)、ハース・マルティネスの75年作『Hirth From Earth』(Warner Bros.)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2012年11月16日 21:50

更新: 2012年11月16日 21:50

ソース: bounce 349号(2012年10月25日発行)

文/桑原シロー

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