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インタビュー

INTERVIEW(3)――〈癒し〉だけじゃなく〈毒〉もある感じ



〈癒し〉だけじゃなく〈毒〉もある感じ



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――今回、山内くんがメロディーまですべて書いた曲は……。

「“euphoria”“undo”ですね。あと“Lost”も、最初は全部メロディーを付けてきてたんですよ。で、俺もまた違うメロディーを付けていて、2つを合体したんです。〈Aメロは山内のほうがいいけど、Bメロは俺のほうが絶対いいよ〉とか言って、サビも作り直して。そういうことは初めてでしたね。山内は山内で、本当は全部やりたかったのかもしれないけど。でも違う人がメロディーを書くと印象が変わるし、“Lost”に関してはそのほうがいいと思ったんです」

――さっきの〈尖った山内〉じゃないけど、今回は彼のエフェクターが大活躍していて、ヘンな音がいっぱい聴こえるんで、すごく楽しいですね。

「そこって結構大事だなと思うんですよ、sleepy.abにとって。ヘンな音を出すことが」

――シューゲイザーと呼ぶには音が繊細すぎるし、エレクトロニカと呼ぶにはエキセントリックすぎる。あと、バイノーラルな感じもあるじゃないですか。音が頭のなかを駆け回る感覚とか。

「そうですね。作用する音、効能のある音とか、そういうイメージはありました。昔は特にそういうことを考えていたんですよ。山内の出す音って、神経を刺激するような音が多かったので」

――それがα波かβ波かわからないけど……。

「それでα波寄りになってたんですよ、いままでは」

――ああ、なるほど。〈癒し〉の方向に作用していた。

「でも今回はもっと違う部分で、〈毒〉もある感じですね」

――それ、すごくわかります。癒しのα波ミュージックを作りたいわけじゃないと。

「そういうこともやろうと思っていた時はありましたけどね。『Mother Goose』の頃とか、そういう楽曲も多かったと思うので」

――そういう、脳に作用するようなアプローチは、『neuron』というタイトルにも繋がってますよね。

「そうですね。もともとの〈宇宙〉というテーマが〈脳内宇宙〉になっていったのも、そういう意味がありました。アンドロメダ銀河の写真と、脳神経の写真があって、その形が酷似してるんですよ。図鑑か何かで見たんですけど」

――ほー。

「ニューロン(神経細胞)の形と、アンドロメダのなかの何かの状態が……具体的なことは忘れちゃったんですけど、とにかくそれがめっちゃおもしろいと思って。ロマンを感じるじゃないですか、そういうのって。人間のなかに宇宙があるなんて。それでどんどんイメージが膨らんでいって、〈そうだ、脳内宇宙だ〉っていう思い込みでどんどん曲が作れたんですよ。制作の後半は」

――もともとは単純に〈宇宙〉をテーマにした“アンドロメダ”から作りはじめたものが……。

「そこではただ漠然とした宇宙とか、重力とか、孤独感とか、そういうイメージだったんですけどね。そこから内部に入っていくというトリップ感が出てきたんですよ。“euphoria”(多幸感)はまさにそういうことで、“darkness”の〈中毒〉というテーマとかにどんどん繋がっていくんですけど」

――そういう意味では、すごくコンセプチュアルなアルバムですよね。

「最初は本当に〈宇宙〉というコンセプトだけだったのが、そこに深みが出てきた」

――これまでの作品以上に、引き込まれる感じがすごく強いアルバムだと思うんですよ。しかも、ちょっと危ない感じがある。〈多幸感〉なんて、ドラッギーな匂いのする言葉だし。

「いい意味での言葉ではないかもしれない。多幸病という言葉があったりするし」

――そういう気分にリスナーを誘い込むような音楽だと思います。歌詞の面では……?

「自分が詞を書く時って、逃避感みたいなものがあるんですよ。楽になりたいというか……何て言うのかな、いつも逃げようとしてる気がする。何からかはわからないけど。それが出ちゃうんですよ、そうしようと思ってなくても。それを、詞を読んだ人から指摘されて、ああ、そうですねっていうことが多い。言われてハッと気付くんです」

――逃避願望というのは深いテーマですね。

「ただ今回は、〈喪失感〉のほうが強いと思う。それを書こうと思っていたわけじゃないんですけど、自然に出ちゃってるという感覚はあります。それも、言われて気付いたんですけどね」

――次はライヴですね。4月からのツアー、楽しみにしてます。

「いつも、作ってる時には手応えというのはわからないんですよ。人に聴いてもらって初めて、その形が自分たちにも見えてくるので。最近はアルバムを出す前に〈録音経過報告行脚ツアー〉というのを毎回やってるんですけど、今回はそこで手応えがすごくあったんですよ。その時初めてこのやり方はいいということがわかって、いつもよりも早く手応えを感じたんですよね」

――リリース後となる今度のツアーでは、また違う手応えがあると思いますよ。リズムが強いから、すごく新鮮に感じる人も多いと思う。

「汗かいてやってますからね(笑)。自分たちでも楽しみですよ」



カテゴリ : .com FLASH!

掲載: 2013年01月30日 17:59

更新: 2013年01月30日 17:59

インタヴュー・文/宮本英夫  撮影/古渓一道