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インタビュー

MAYLEE TODD 『Escapology』





“Hieroglyphics”でメイリー・トッドを知った、という人は少なくないはず。あの甘酸っぱい歌とメロウな旋律に憂鬱をそっと慰められて……それからずっと、胸をときめかせながら心待ちにしていた、3年ぶりのセカンド・アルバム『Escapology』がついに到着しました。

自身の音楽のエッセンスを「ボサノヴァ、ジャズ、ファンク、ソウル、ブギー、フォーク、エレクトロニック、実験音楽、そして人と街」と語る彼女。それらをモダンにアップデートした音楽性に加えて、「最初の頃はブランニュー・ヘヴィーズ、ホール、クラッシュ・ヴェガス、クランベリーズなどの女性アーティストに影響を受けてたくさんの曲を書きました」と言う通りの、アシッド・ジャズを思わせる爽快さや、ポップでアコースティックなフィーリングも魅力です。ホールにいたコートニー・ラヴのような破天荒な性格ではなさそう、とはいえアルバムのオープニングを飾るディスコティークな“Baby's Got It”のPVをはじめとするアートワークではエキセントリックなヴィジュアル・イメージを打ち出していたりも。これは何にインスパイアされているのでしょう。

「周りの世界すべてからインスピレーションを受けたものです。他のアーティストやパフォーマーからたくさんインスピレーションを受けてきたし、夢からアイデアを思いつくこともあります。これがいちばんエキサイティング。夢の中はとてもおもしろく興味深いものです」。

しかしながら、彼女自身は夢見がちな女子(?)というわけでないようです。「一か月間ブラジルをバックパック旅行した後に、家に戻ってから書きました」という、みずから爪弾くパラグアイのハープと歌声の多重録音が幻想的な小品“Successive Mutations”や、「この曲は社会と自分自身の視点への疑問についての曲。私たちが生きる世界について疑問を持つのは大切なことです」と、サイケでスモーキーな音像のジャズに乗せて力強く主張する“Wash The Seeds”といった曲においては、行動派かつコンシャスな一面も窺えます。

ポインター・シスターズのファンキーな数え歌“Pinball Number Count”を忠実にカヴァーした理由については、「この曲が大好きなんです、とても楽しい曲ですしね。テレビの〈セサミストリート〉から流れるこの曲をよく聴いていた思い出があります」とのことで、「父はエルヴィス・プレスリーのインパーソネイターで、ギターを弾いていたし、妹もバンドをやっていてギターとピアノを弾いていました。もっとも尊敬する人物は母。彼女は素晴らしいです」と、仲の良い家族に囲まれていた思い出も語ってくれました。それらを踏まえて聴けば聴くほど、趣味の良さと感度の高さを育みつつ、ひとりの素敵な女性として真っ当に育ってきた彼女の人となりがそのまま表れているようなアルバムだという印象が強くなります。では最後に、エジプトの象形文字ヒエログリフを曲名とした、皆が大好きな“Hieroglyphics”について。

「昔からエジプトのすべてに興味があって、自然とエジプトの架空のラヴソングを書きました。他は自分の実体験を元に書いていますが、この曲だけはフィクションです」。

彼女の分身のようなアルバムのなかでいちばん甘酸っぱい曲が、架空のラヴソングだとは。音楽を通していちばん表現したいものは?という問いには、一言「Love.」と答えるメイリーがくれたとびきりのフィクションにときめくか、それとも自分の恋のサウンドトラックにするかは、あなた次第ということでしょうね。



PROFILE/メイリー・トッド


カナダはオンタリオ州トロント出身のシンガー・ソングライター。地元やモントリオールのインディー・シーンで活動を開始し、ヘンリー・ファベルグ・アンド・ザ・アドラブルズに加入し、2006年のアルバム『Henri Faberge And The Adorables』に参加。以降もウッドランズやジョン・エプワースらの作品で歌や演奏を披露して徐々に注目を集めていく。その後ドゥ・ライトとソロ契約を結び、2010年6月にファースト・アルバム『Choose Your Own Adventure』を発表。2012年のシングル“Hieroglyphics”が日本で話題となって注目を集める。続くシングル“Baby's Got It”を経て、ニュー・アルバム『Escapology』(Do Right/Pヴァイン)を4月3日に日本先行リリースした。

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年04月17日 17:59

更新: 2013年04月17日 17:59

ソース: bounce 353号(2013年3月25日発行)

構成・文/池谷昌之