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インタビュー

SPYAIR 『MILLION』



メジャー・デビュー3年目、理想の未来へ向けて新たに歩きはじめる彼らの第1章を集大成した新作。現状を打破し、〈MILLION〉な存在になる自身を心に描いて……



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進化より深化

2010年8月のメジャー・デビュー以来、ハイペースな活動を展開してきたSPYAIR。昨年12月には日本武道館での単独公演を成功させたが、その後も休むことなく、シングルのリリースやツアーを続けてきた。その視線の先に常にあったのは、3枚目のフル・アルバム『MILLION』だ。

「武道館はひとつの区切りではあったと思うけど、ずっとサード・アルバムを目標にやってきたから、今回このアルバムが出来て、やっと区切りになったかなって。去年の10月からアルバムに向けた曲作りを始めていたので、12月の時点では〈まだまだこれから走っていくぞ〉っていう感覚のほうが全然強かったです」(UZ、ギター/プログラミング)。

「〈武道館〉っていう冠を付けて、よりいっそう広がりを求める活動をしてきた感じですね。鳴らすサウンドは一切変わってないし、俺らが根っこから求めてきた〈バンドとして見られたい〉っていう理想に、むしろ近付いたように思います」(IKE、ヴォーカル)。

UZがイメージする詳細な設計図を基にして、じっくりと制作が進められた新作『MILLION』は、コーンやリンキン・パークといったニュー・メタルを背景に、パンクの要素を加味してキャッチーなメロディーでまとめ上げられている。誰もが〈SPYAIRらしい〉と思える楽曲の揃った、いわば〈進化より深化〉の一枚だ。先行シングル“現状ディストラクション”や“サクラミツツキ”をはじめ、全11曲にバンドの旨味がギュッと凝縮されている。

「音楽的に新しい挑戦をするよりも、いままで作ってきたものをより研ぎ澄ました、完成度の高いアルバムが作りたかったんです。もしかしたら、SPYAIRをずっと聴いてくれてる人にとっては〈この曲、アレに似てる〉とか、そういうのがあるかもしれないけど、いまこのタイミングでメジャー・デビューしてからの3年間を凝縮して、なおかつそこからさらに一歩進んだアルバムを作ることが、バンドにとっていちばん良いことなんじゃないかって」(UZ)。

「歌詞に関して言えば、ファーストとセカンドは伝えたいことや言いたいことを詰め込みすぎたっていう反省があったんですけど、今回はアルバムの設計図があったので、ひとつの方向に向かいやすかったですね。〈現状を打破する〉っていう、自分たちの核にあるメッセージを、アルバム全体で伝えることができたと思います」(MOMIKEN、ベース)。

〈SPYAIRらしさ〉を基軸としたうえで、『MILLION』でより強まっているのは、楽曲のスケール感だろう。アルバム・タイトルや、ジャケットのアートワークにも表れている通り、インディー時代に野外を拠点に活動していた彼らが理想として思い描くのは、巨大な野外ライヴのイメージ。なかでも、サイレン音が作品の幕開けを告げる“OVERLOAD”や、ダンサブルな“Supersonic”からは、UZがフェイヴァリットに挙げるプロディジーやジャスティスあたりの影響がはっきりと窺える。

「それもやっぱり設計図があったことが大きくて、他の曲でしっかり芯になるロックをやってるから、エレクトロニックな曲はそっちに思いっきり寄せることができたんです。特に“Supersonic”はバンドじゃ普通やらないようなことをめちゃめちゃ綿密に作り込んでやったので、すげえ楽しかったです」(UZ)。

「“Supersonic”は極上のドラムのサンプルを一発録って、後はそれを貼り付けていく手法を取ったんです。UZから〈この曲はイヤらしいくらいエレクトロニックに寄ろう〉と言われたから、〈いっそドラムの空気感とかもいらなくねえ?〉って話になって、バラバラに録っちゃおうと。こういう曲を生でやると、また違った気持ち良さがありますしね」(KENTA、ドラムス)。



ジャケットのような景色を見たい

また、アルバムのスケール感を決定付けているのが10曲目に収録された“虹”だろう。すでにシングルで発表されていた、TVドラマの主題歌としてもお馴染みのナンバーで、空間に広がりを出すシンセやコーラスが特徴のミディアム。アルバムの終盤に置かれたこの曲が、作品全体を包み込むかのような、重要な役割を果たしている。

「“虹”はまさに野外ライヴで音がどこまでも響いていく感じ、突き抜けていく感じを表した曲ですね。俺はやっぱり〈売れたい〉っていうのがあって、〈好きな奴だけ聴いてくれればいい〉じゃなくて、音楽をそんなに聴かない人にも響くような曲を作りたいっていうのがあるから、この曲はバンドのスケール感をよりキャッチーなメロディーで伝えるっていうのがテーマでした」(UZ)。

「“Winding Road”や“虹”は、プレイヤーとしてのいまの自分が全部詰まってる曲だと思います。俺もやっぱり野外ライヴの景色を想像してて、ステージに立った時に後ろのほうの人にも届く音を鳴らしたいし、しっかりと後ろで曲を支えるような音を出したい。それが今回のレコーディングではできたと思うので、自信になりましたね」(KENTA)。

アルバムのラストを飾るのは、“16 And Life”。10代の頃を思い返して、家族や友人への感謝を伝えるような、パーソナルで温かみのある一曲だ。

「これまでもアルバムでは自叙伝的な曲を書いてて、今回はこれかなと。いろいろ抱えてるものを1回許してあげて、また新たな気持ちで進んでいこうっていうメッセージを、最後に閉じ込めておきたかったんです」(MOMIKEN)。

「“虹”で終わっても完結するとは思うんですけど、やっぱりアルバムなので、また1曲目から再生してほしいんですよね。そう考えると、“虹”はパワーが強すぎて、これがラストだとまた1曲目に戻るのが難しいと思う。だから最後に落ち着かせてくれるようなアコースティック曲を置けば、フラットになってまた最初に戻れると思うんです」(UZ)。

例えば、今年でデビュー25周年を迎え、9月には日産スタジアムでの2デイズが予定されているB'zのように、99年に幕張メッセで20万人を動員したGLAYのように、SPYAIRが期待されているのはまさにそんなスケール感のあるロック・バンドになることであり、またSPYAIRというのはそれを実現できる可能性を秘めた、日本で数少ないバンドのひとつだと言って良いだろう。11月からは初のホール・ツアーを開催するが、その先にあるのはもちろん大規模な野外ライヴの景色だ。

「SPYAIRの第1章の終わりですが、未来を作るすごく重要な作品になりました。ライヴハウス、ホール、アリーナの先で、『MILLION』のジャケットのような景色が見たい。このアルバムはその原動力になるんだと思います」(IKE)。



▼SPYAIRのライヴDVD「SPYAIR LIVE at 武道館 2012」(ソニー)

 

▼『MILLION』の先行シングル。
左から、“サクラミツツキ”“虹”“現状ディストラクション”(すべてソニー)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年07月31日 18:01

更新: 2013年07月31日 18:01

ソース: bounce 357号(2013年7月25日発行)

インタヴュー・文/金子厚武