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インタビュー

DANNY BROWN 『Old』



フレッシュマンと呼ぶにはキャリアがありすぎるものの、そのラップはいまもってフレッシュすぎる。デトロイトに育まれたもうひとりのモンスター、ダニー・ブラウンとは俺のことだよ!!!!!



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例えばフューチャーにフレンチ・モンタナ、マシンガン・ケリーのようなメジャーリーガー。あるいは絶大なクロスオーヴァーに成功したマックルモア。さらにはキッド・インクやドン・トリップ、イギー・アザリアといったこれからの逸材。もしくはそれ以前から名を売っていたロスコー・ダッシュやホプシンもいる。ヒップホップ専門誌の「XXL」が毎年アップカミングなMCを選出するお墨付き企画〈Top 10 Freshmen〉の2012年版において、以上の9名と並んで選出されたのがダニー・ブラウンだ。彼が選ばれた理由はハッキリしているだろう。前年にリリースしたフリーDL作品『XXX』がその年のベスト級と言ってもいいほどの評価を集めたからに相違ないが、いかにもフレッシュなクラスメイトに比べれば彼がそれなりのキャリアを積んできたのも事実である。

デトロイト出身の32歳。2000年代初頭からレザボア・ドッグズなるグループで活動してきた彼は、ドラッグ・ディーラーとして生計を立てながら自身の活動をマイペースに進めてきた。

「いままでプロフェッショナルにやってきたとは感じていないんだ。兄弟たちとミックステープのようなものを作っていただけというか。ただ曲を作って、インターネットにアップしてた。あまり良い出来とは思わないけど、たぶん探せばまだダウンロードできるんじゃないかな。でも、街の外の人たちに知ってもらえるなんて凄いことでさ、俺自身にとってはね。自分の作りたい音楽を作って、それを周りが徐々に気に入ってくれたわけだから」。

ディラの死後作『Jay Stay Paid』(2009年)への抜擢を経て、同郷のブラック・ミルクにフックアップされた頃にはGユニット入りを噂されたこともあった(トニー・イェイヨとミックステープを出している)。が、『Detroit State Of Mind 4』や『The Hybrid』といったミックステープが一部で高い評価は得ながらも、持ち前のアヴァンギャルドさはメインストリームの舞台にしっくりくるものではなかったのだろう。『XXX』をリリースしたのはA・トラックが主宰するフールズ・ゴールド。いわゆるオーセンティックなヒップホップ・レーベルではないところも居心地が良かったようだ。ハードなラップの作法をよく比較されるというディジー・ラスカルについて、ダニーはこう語っている。

「思うに、俺の親父はハウスのDJだし、デトロイト出身ということもあってゲットー・テックとかダンス・カルチャーのなかで育ったから、彼の音楽は自分の世界とそうかけ離れてなかったんだと思う。最初に俺が買ったミックステープはDJクルーのものじゃない。DJアサルトさ。あれはBPM140のミニマルだよ。あれもグライムもBPM 140のミニマル・エレクトロだし、俺にとっては、デトロイト出身の奴がディジー・ラスカルに影響を受けるってのは頷けることさ。彼は俺より若いけど、『Boy In Da Corner』(2003年)は俺に、実験したりクリエイティヴでいることを教えてくれた。彼のCDを聴いた当時は俺の人生でも大変な時だったけど、俺が当時思ってることをすべて彼が代弁してくれたんだ」。

そのままフールズ・ゴールドから登場したのが今回のニュー・アルバム『Old』である。『XXX』から続投して今回最多の5曲を手掛けたのは、ナウ・アゲイン経由で広まったサイケ怪作『Paul White & The Purple Brain』で知られ(ざ)るポール・ホワイト。エイサップ・ロッキーらをフィーチャーした“Kush Coma”やスクールボーイQとの“Dope Fiend Rental”などを担当したSKYWLKRの乱打ビートも何かを吹っ飛ばすだろう。そこにオー・ノーやラスティ、そしてバッドバッドノットグッド&フランク・デュークスといった興味深い顔ぶれが加わって、『Old』はニューでしかない創造性豊かなアルバムとしての輪郭を整えている(エンジニアはシックノーツのウィット)。みずから共演相手に指名したというピュリティ・リングスとチャーリーXCXを除けば、ダニーいわく「ただ俺と仲の良い奴ら」だという。ただ、そのようにメインストリーム方面との交流も図りながら表現を進化させていく彼は、とりわけ本国では伝統的なラップ・ミュージック好きから良く思われていないのだそう。

「俺は悪役なんだ。ヒップホップ界にたくさんスーパーヒーローがいて、例えば凄いイイ奴とか皆のダチみたいな連中が溢れ返ってるとしたらね。ただ、そういった連中ってのはたぶん90年代初期の頃で止まっちゃってるんだろう。俺はラップのやり方をわかってるし、ジャンルを発展させていくことも意識してる。プログレッシヴでありたいんだ。俺にとっても90年代の音はクールだし偉大なものだ。でももしそこに居続けるとしたら、10年後にはどうなる?」。



▼関連盤を紹介。
左から、エイサップ・ロッキーの2013年作『Long.Live.A$AP』(A$AP Worldwide/Columbia)、スクールボーイQの2012年作『Habits & Contradictions』(Top Dawg)、ピュリティ・リングスの2012年作『Shrines』(4AD)、チャーリーXCXの2013年作『True Romance』(Asylum UK)、ポール・ホワイトの2011年作『Rapping With Paul White』(One-Handed)、オー・ノーの2013年作『Disrupted Ads』(Kash Roc)、ラスティの2011年作『Glass Swords』(Warp)、A・トラックの2013年作『Tuna Melt EP』(Fool's Gold)

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月27日 17:59

更新: 2013年11月27日 17:59

ソース: bounce 361号(2013年11月25日発行)

構成・文/出嶌孝次