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インタビュー

禁断のほうのき語録から『アラビアの禁断の多数決』の背景を探ってみよう



途轍もなくキャッチーでありながら掴みどころのない禁断の多数決の音世界には、混沌としたリスナー気質が潜んでいる。なかでもよく指摘されるのは、アニマル・コレクティヴとの共通性だ。ほうのき自身もフェイヴァリットに挙げる存在で、メンバーの担当楽器が流動的、かつ〈ヘンな音〉を受け持つメンバー(ジョー・ミーク好きのシノザキ)が在籍する点や、いくつかの曲に流れる無国籍感にはアニコレと重なる部分も大きい。では、このバンドのポップ感のルーツは何かというと──。

「みんなバラバラなんですけど、メンバーで共通するのはやっぱりニュー・オーダーですね」(ほうのき:以下同)。

確かに新作の基本トーンとなるキラキラした電子音と日本人の琴線に触れるセンチなメロディーの融合、そして時にピーター・フックばりのベース・ソロが飛び出してくるあたりには、その影響が色濃く表れている。

一方、優雅なストリングスが鳴り響く“魔法に呼ばれて”では映画好きな一面も顔を覗かせる。「マグノリア」で登場人物たちがエイミー・マンの“Wise Up”を歌い継ぐシーンを想定したというこの曲には、MC sirafu(ザ・なつやすみバンド、片想い、他)がトランペットで参加。ほうのきは、「彼の音色にスフィアン・スティーヴンスを感じた」と言う。

さらに今回、新機軸と言えるムードが〈アーバン感〉だ。それを象徴するのがディスコティークな“今夜はブギウギナイト”。もちろん、小沢健二とスチャダラパーによる稀代の名曲“今夜はブギーバック”へのオマージュだが、曲が進むにつれてヴォコーダーがあらぬ方向にヨレていくところに〈らしさ〉がジワリ。

だが、そうしたナンバーがあるかと思えば、アルバム中盤の“踊れや踊れ”では和のテイストとワイルド・ビースツの裏声唱法とを融合させた、通称〈こぶしサイケ〉な音を展開して聴き手を煙に巻く。加えて、ラストを飾る“アイヌランド”では、哀愁のアイリッシュ・サウンドにアイヌ語の歌詞を乗せて民族音楽同士のマッシュアップを試みたりも。

「元はトーキング・ヘッズの“Once In A Lifetime”みたいな曲をやりたかったんですけど、そこに(以前から興味のあった)アイヌ語を入れてみたいな、と。で、チリのミニマル・テクノ、リカルド・ヴィラロボスに児童合唱団の曲“Enfants(Chants)”があって、あれにアイヌ語が合うんじゃないかと思って作ってみたら、なぜかアイリッシュになっちゃったんです」。

一見無邪気で単純な足し算のようだが、最終的に飛び出してくるのは不可思議な珍解答の数々。そんな予測不能のドキドキ感こそが、禁断の多数決のおもしろさなのだ。



▼関連盤を紹介。
左から、アニマル・コレクティヴの2012年作のデラックス版『Centipede Hz: Deluxe Edition』(Domino)、ジョー・ミークの60年作『I Hear A New World』(Triumph/RPM)、ニュー・オーダーの89年作『Technique』(Factory)、エイミー・マンの2000年作『Bachelor No.2』(Superego)、スフィアン・スティーヴンスの2010年作『The Age Of Adz』(Asthmatic Kitty)、小沢健二の2002年作『Eclectic』(ユニバーサル)、ワイルド・ビースツの2011年作『Smother』(Domino)、トーキング・ヘッズの80年作 『Remain In Light』(Sire)、リカルド・ヴィラロボスの2012年作『Dependent And Happy』(Perlon)

 

 

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月20日 17:59

更新: 2013年11月20日 17:59

ソース: bounce 361号(2013年11月25日発行)

文/佐藤一道

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