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インタビュー

YOUR SONG IS GOOD 『OUT』



前作から3年半。ベスト盤を挿みつつ、バンドが次にやるべきことを模索するなかで見つけたひとつの答え——これまでもさまざまにその音楽性を変化させてきた彼らだが、まさか……まさかこうくるとは!!



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写真/平野太呂



点と点が繋がった

あれ、かけるCD間違えちゃった?——YOUR SONG IS GOOD(以下YSIG)にとって通算5枚目となるアルバム『OUT』を聴き、そう早とちりしてしまったのは筆者だけじゃないはずだ。まるでブラジリアン・フュージョンみたいなイントロで幕を開け、ハウシーなビートでジワジワ引っ張っていく冒頭曲“Re-search”には、これまでのYSIGを特徴付けていた陽気なトロピカル・ムードもなければ、パンキッシュな爆発もない。続く“Changa Changa”はサイケデリックなギターのループで始まり、BPM140のイーヴン・キックが疾走したかと思えば、後半では阿波おどりみたいなビートに変化……というわけで、全曲がこの調子。彼らにいったい何が起きたんだ?

3年半前の前作『B.A.N.D.』について、オルガン/ヴォーカルのサイトウ“JxJx”ジュンは「これまでやってきたことを踏まえて、メンバーそれぞれがやりたいことをやったアルバム」と説明する。

「だから、いろんな要素が入ってる。ひとつの音楽性を突き詰めるために始めたわけじゃないバンドとしての行き切った場所というか。〈このままの形でいくと、バンドでやんなくてもいいんじゃないかな?〉というギリギリのバランス」(JxJx)。

その後、2010年10月にベスト盤『BEST』を発表。そのリリース・ツアーでは持ち曲80曲を2日間でやり切るという無謀な全曲ライヴも決行した。

「2日間で80曲やったら何か見えるんじゃないかと思ったの(笑)。でも、気持ち的にすごくすっきりしたし、普段ライヴでやってない曲をやったことで得たものもあって」(JxJx)。

「あのタイミングでやらないと一生葬っちゃうような曲もあったし(笑)」(ヨシザワ“モーリス”マサトモ、ギター)。

ライヴにおいて変化が生まれてきたのはその時期だという。

「新曲がないなかでライヴを続けていく必要もあって、これまでの曲をいじっていったのね。パーカッシヴな部分を活かすような作りになったら自然に尺が伸びていって、歌モノだったらコーラスだけで引っ張りながら、そこに全員が入ってドン!という展開に変わっていったり」(JxJx)。

いわばトラックメイカーがエディットする感覚。DJとしてもそれまで以上に活発な活動を展開するようになったJxJxの音楽的志向の広がりもその方向性を後押しした。

「打ち込みの音楽になぜか興味が芽生えつつあるタイミングだった。ムーンバートンを生み出したデイヴ・ナダがワシントンDCでハードコア・パンクをやってた人ってことに親近感を感じて。で、もうちょい広げていったらトロピカル・ベースに繋がっていって、 その後、テクノ、ハウスまで広がるんだけど、これはとにかくYSIGをもっと違う方向に持っていけるんじゃないかと思うようになったんだよね。ルーツ・ミュージックをダンス・ミュージックとして機能させていくという方向が見えてきて、点と点が繋がっていった」(JxJx)。



自然にやれるようになってきた

JxJxは「曲が持ってる世界観も大事なんだけど、ダンス・ミュージックとしてのビートの機能性に着目した」と話す。でも、これまで彼らが取り組んできたスカやカリプソもある意味ではそういう機能性を持つ音楽であるわけで……。

「そう、結局〈違いはなかった〉という結論に達したんだよね。スカもダンス・ミュージックとして機能する音楽で、その意味ではテクノと違いはなかった。それを身体で理解したというか。それがデカいヒントになった」(JxJx)。

今年6月からは元bonobosの松井泉(パーカッション)がサポート・メンバーとして参加。メジャーを離れ、彼らにとってのホームであるKAKUBARHYTHMのもとで3年半もの時間をかけてじっくり制作されたのが今回の『OUT』というわけだ。

「3年半も待ってもらえたのはKAKUBARHYTHMだからこそ。今回はすぐ出すんじゃなくて、結構寝かすことができた。中途半端なアイデアだったらやる意味がないなと思ってたし、本当にやるべきことに対する確信を持てるようになるまでに3年半必要だったのかも」(JxJx)。

高速スカからクンビアへと展開していく“Ultra Roll Up”、親指ピアノとエレピ・フレーズが牽引する“Unidentified Hot Springs”、クドゥル風のビートが爆発する“Pineapple Power”などなど全曲にフレッシュな感覚が詰まっているが、さまざまなアイデアは噛み砕かれ、素材そのものの形を残す楽曲は一切ない。

「どこかでヒネりたくなっちゃう(笑)。そのままやるんじゃなくて、やっぱりYSIGの形にしたいんだよね」(JxJx)。

「みんないろんな音楽が好きだから、どんな曲でもやれちゃう。そのぶん何でもアリになってしまうところがあって……そこを通り越して自然に出た答えがこのアルバムな気がしてる」(モーリス)。

YSIGは今年結成15年。キャリアを重ねればそりゃ初期衝動だけで音楽をやるのも難しくなってくるだろう。だが、彼らはいま改めてフレッシュな感覚で音楽と向き合っている。

「そこはすごく考えたんですよ。いままでは自分の思想も含めて全部バンドに注ぎ込んでたんだけど、メンバーそれぞれの人生が当然あるわけで、各自の人生が交差するところにバンドがあってもいいんじゃないかって。『B.A.N.D.』の時はそれぞれがやりたいことをYSIGに100%詰め込んでたんだけど、YSIGっていうハコの容量もいっぱいいっぱいになってきて……いまはやりたいこと全部をバンドに注ぎ込まなくてもいいような気がしてきたんだよね。肩の力を抜き、自然にやれるようになってきたというか」(JxJx)。

『B.A.N.D.』がYSIGにとってひとつの到達点だったとすれば、『OUT』はバンドの第2章の幕開けを宣言する作品と言えるかもしれない。新たなグルーヴを携えた最新型YOUR SONG IS GOOD。こんなアルバムが届けられるなんて思わなかった!



▼YOUR SONG IS GOODの近作。
左から、2007年作『HOT!HOT!HOT!HOT!HOT! HOT!』(KAKUBARHYTHM)、2008年作『THE ACTION』、2010年作『B.A.N.D.』、ベスト盤『BEST』(KAKUBARHYTHM/ユニバーサル)

 

▼2011年のデイヴ・ナダのコンピ『Blow Your Head Vol.2: Dave Nada Presents Moombahton』(Mad Decent/Downtown)

カテゴリ : インタビューファイル

掲載: 2013年11月27日 18:01

更新: 2013年11月27日 18:01

ソース: bounce 361号(2013年11月25日発行)

インタヴュー・文/大石 始