掲載: 2015年09月01日 15:00
ソース: 2015/9/10
TEXT: 宇野維正
パスピエのサードアルバム『娑婆ラバ』は、圧倒的なテンションで全編を駆け抜けていく、どこからどう切っても<これぞパスピエ!>と歓喜の声を上げずにはいられないポップアルバムだ。あ、いや、<どこからどう切っても>って言うと、金太郎飴的な作品だと誤解されかねないな。確かに<どこからどう切っても>パスピエのオリジナルな顔が出てくるけど、その表情は曲によって驚くほど豊かだ。たとえば冒頭の“手加減の無い未来”のイントロは典型的な今風ギターロックだし、“術中ハック”の中盤の展開はグランジみたいだし、“つくり囃子”はある年代以上のロックファンが聴くと「プログレ……?」と声を漏らすに違いない、そんな数々の仕掛けが張り巡らされている。と同時に、「パスピエの音楽」としての濃度と密度が異常なまでに高まっているのが本作『娑婆ラバ』なのだ。きっと、本作でパスピエはこれまで以上に「バンド」になったんだと思う。もともと各メンバーの演奏やアレンジのスキルには定評がある彼らだが、今作ではソングライティングにおいても、演奏においても、アレンジにおいても、この5人にしかできないことだけをバンドとして完璧にやりきっている。だから、どんなに密度や濃度が高くても、聴き終わった後に不思議な爽快感が残るのだろう。
<静>と<動>で言うと<動>が大半を占める弾けまくったアルバムの中で、ピンポイント的に<静>の役割を果たしている“花”と“素顔”の素晴らしさにも触れておかなくては。12月に武道館公演も決定しているパスピエ。そんな現在のバンドのスケールに見合ったアンセミックな名曲“花”、そしてこれまで匿名的な存在であったパスピエが初めてパスピエ自身を真正面から歌った“素顔”。それらがアルバムの中で異化作用を果たしていることで、“トキノワ”や“裏の裏”といったこれまでのシングル曲もやたらと新鮮に響いてくる。まさに全方位的なポップ絵巻を、パスピエはここに完成させた。
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