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第11回 ─ ムッシュかまやつの〈自己ベスト〉アルバム

連載
360°
公開
2002/08/22   16:00
更新
2002/11/14   12:57
ソース
『bounce』 234号(2002/7/25)
テキスト
文/久保田 泰平

ムッシュかまやつがレディメイドよりニュー・アルバムをリリース!これぞまさしく自己ベスト(どこかで聞いたような)!!

そんなこんなでニュー・アルバム!


 ムッシュかまやつにまつわる印象的な言葉がある。〈軽い音楽とお笑いの時間がやってまいりました!〉――かつてのザ・スパイダースが、ステージ(たしか、20数年前の再結成のとき)登場時に言った言葉である。

「スパイダースの晩年は、クソ真面目に音楽をやってるようなバンドではなかったところもあったしね。解散したあとも、(堺)正章さんとか(井上)順ちゃんが、どっちかっていうと〈お笑い〉の方向にいっちゃったりしたし。そのときのスパイダースには言い得て妙だったんだよね」。

 とはいえ、その言葉はムッシュご自身の音楽遍歴にも言えて。ジャズ~カントリー~マージー・ビート~アメリカン・ポップス~フォーク~アシッド・ジャズ……軽やかなフットワークで傾倒し、自身の音楽を飾り立てていったムッシュ。そして、そこから滲み出る(決して苦笑いではない)ユーモア。

「一瞬、クソ真面目になるんですよ。クソ真面目になって、フッとそういう自分を客観的に見て、〈なにをやってんだか〉っていう(笑)。そういうのの繰り返しかな」

 さて、今回の本題、ムッシュかまやつのニュー・アルバム『―我が名はムッシュ―Je m'appelle MONSIEUR』。このアルバム、収録曲のほとんどがセルフ・カヴァー、そのうえ、かつてのオケをまんま使用したものもあったり、さらには「これ、120%小西さんが作ったアルバムですから」とムッシュも言うように、選曲をはじめ、アレンジ、ゲストの人選、ジャケットのデザイン……要するに小西康陽の作品と言ってもよいぐらいの作品。ところがどうして、聴いた感想は……〈ムッシュ最高!〉。

「小西さんは、どういうふうにすればそう言ってもらえるかってことをわかってたと思う」。

 そんな小西康陽に賛同するような形で、このアルバムには多くのゲストが参加し、作品に花を添えている。あいさとう(ヘアー)、沖井礼二(Cymbals)、堀江博久(ニール&イライザ)、和田卓造(ワックワックリズムバンド)、市川実和子、そしてマチャアキ。まさに〈ムッシュ愛〉で囲まれた作品。

「そういう感じですね。ミュージシャンの人たちもみんな若いし……でも、なんかそれほど会話を交わし合わなくてもグルーヴが合った」。

 ところで、このアルバム。当のご本人は、完成したものをまだ聴いていないそうで。

「なぜかっていうと、昔だったら2小節か4小節のフックを聴いただけで〈この曲イイッ!〉って言えたの。ところがそれから何年も何年も音楽のなかにいると、選別がつかなくなってくるのね。そういう動物的な勘ていうのは、若いリスナーがいちばん持ってると思うし、そういう感性には、戻れないけど戻りたいっていう欲求があるから。自分が歌っているものなんていうのは、最初っから興味がないわけですよ、基本的に言うとね。だから、ものすごく客観的に聴いてみたくって。自分の足でレコードを買いに行って、家に帰って針を落とす、みたいなところに戻りたいっていうのが自分のなかにはあるんですよ」。