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第27回 ─ 空前絶後のファンキー・ムーヴィー「ゲロッパ!」のゲロッパぶりを立体プレヴュー!

連載
360°
公開
2003/08/07   13:00
更新
2003/08/14   15:34
ソース
『bounce』 245号(2003/7/25)
テキスト
文/村尾 泰郎

→「ゲロッパ!」特報映像もチェック!(WMP 500k)


井筒監督が語る
「ゲロッパ!」とその音楽


〈暗闇のなかパッソーラが走る。そこにジェイムズ・ブラウンの“It's A Man's World”……〉。

 その物語のシナリオはそんな風に始まっていた。その物語=「ゲロッパ!」の監督、井筒和幸監督から訊いたんだから間違いはないし、事実、映画はそんなふうに始まる。空撮。眼下には工場の煙突。川沿いの土手道を、気が抜けたようなエンジン音で疾走する2人乗りのスクーター=パッソーラ。そして、“It's A Man's World”。これには正直シビレた。

「デトロイトの感じやね。工場があって、川があって、ちっちゃな住宅がちょこちょこっとあって……あそこでかかるの、“It's A Man's Man's World”やなくて、それ録る前に吹き込まれてた“It's A Man's World”やねん。こっちのほうがブルージーで、もう泣いてんのよ。モノラルなんやけど、それをヴォーカルが入るタイミングでドルビー・システムにぐわ~っと広げてる」。

 井筒監督最新作、「ゲロッパ!」。ストーリーはこうだ。刑務所入りを数日後に控えた裏渡世の親分・羽原(西田敏行)にはこの世に未練が2つある。ひとつは25年前に別れた娘・かおり(常盤貴子)に再会すること。そしてもうひとつはJBのコンサートに行くこと。それを察して、同じくJBを愛する弟分・金山(岸部一徳)は兄貴へのたむけとして舎弟たちに命じる。「JBをさらってこい!」──こんなとんでもない物語に、さらに弾みをつけるのがソウル・ミュージックの数々だ。JBはもちろん、シェリル・リン、シック、フォー・トップス……。

「……あとテンプス(テンプテーションズ)、シュープリームスとかやな。70年代当時、フツーに喫茶店で流れてて、そこでよう聴いてましたからね。レコードなんて買わへんよ。店でかけてもろて聴いてたから。遊び場が道頓堀で、街にはR&Bが溢れとったし、アフロもようけ歩いとった」。

 そんななか先輩と音楽系のミニコミ誌を作っていたという監督。「はっぴいえんどやってた細野(晴臣)や、松本(隆)にインタヴューしたな。はっぴいもギンギンの頃やから(笑)。それから鈴木慶一、あがた森魚、高田渡……」と、興味の赴くままに音楽を追いかけていた時に出会ったのが浪花のJB(?)、上田正樹だったとか。

「キタのクラブで、ホステスとか酔っ払いのオッサン相手にファンキーなナンバー演ってたんよ。ソウルとかブルースとか黒人音楽を。キー坊(上田)とは後で連れになって、映画の音楽監督とかやってもうた。でも、なんで関西で黒人音楽やねんて思うんやけど、要するに関西人はクッサイやつが好きやねんな(笑)。クサ系やねん。そやからオレの映画もクサソウル(笑)」。

 今回の映画の主人公たちも関西人。それぞれがラップするように関西弁を喋り倒す(「関西弁には音楽的なグルーヴ感がある。それを西田さんは100パーセントこなしてた」)。そしてこの躍動感は物語のラストでパフォームするSOULHEADの“GET UP!”でピークへ。

「六本木に彼女らのライヴ観にいったらおもろかった。声量も豊かでカッコいい。で、映画にお願いして。その縁で2人のプロモ・クリップも撮った。顔もバコーン!出てるよ。ピチピチ張りまくってる躰もね」。

「ゲロッパ!」の持つ明るさ、生命力、それはとりもなおさずタイトルがすべてを物語ってる。「ゲロッパ!」=「立ち上がれ!」。JBのこの叫びこそ、この映画の魂=ソウルなんじゃないだろうか。

「JBは歌だけやない。パフォーマンス、生き方、スポークスマン的役割、髪型(笑)、そのすべてがおもしろい。それに〈立ち上がれ、バカヤロー!〉なんて本気で歌えるのJBしかいないじゃないですか。JBは歌う前に〈お前らイケるか?〉って煽る。この映画はまさにその煽り。〈オレらはこんな感じやねん、イケるか? いこうや!〉。この勢いが娯楽映画の核やと思うし、オレ自身、そういうノリで生きてきたしね」。

 だからブラザー、そしてシスター、GET UP!しよう。そんなところで道草くってる
バアイじゃないんだから。

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