リオン・ウェアの知名度とその確かなメロウ気質をここまで広めた最大の要因が、マーヴィン・ゲイの『I Want You』(76年)にある、という意見に異論はないだろう。もともとリオンがT・ボーイ・ロスと共に制作途中だった自身のアルバムをマーヴィンが気に入って、自分が歌いたいと図々しく(失礼)申し出たことから素晴らしい2枚のアルバム──『I Want You』と、譲歩の代償としてモータウンからのリリースが認められたリオンのセカンド・アルバム『Musical Massage』──が生まれることとなったのだ。結果としてマーヴィンを語る時には欠かせない名盤のひとつとなった『I Want You』の収録曲は、マッシヴ・アタックが重層コーラスを分厚いダブに置き換えたマドンナの“I Want You”のように幾度となくカヴァー/サンプリングされ続け(メアリーJ・ブライジの新作でもその引用が聴ける)、タイムレスな輝きを証明し続けている。また、そのヴァイブをドラムンベースに落とし込んだマコトの作品も興味深い。さらには、アーニー・バーンズの〈Sugar Shack〉ジャケはキャンプ・ローに〈サンプリング〉されている。
そんな超クラシックが、このたび『What's Going On』『Let's Get It On』に続いて2枚組の〈Deluxe Edition〉としてリイシューされたのだから、これはもう事件だ。Disc-1にはオリジナルの全11トラックに加え、プロモ・オンリーのヴァージョンなどが収録。そして、Disc-2には別テイクや未エディット・ヴァージョンなど、歴史的傑作の創作過程を14トラック収録!! なかでも、オリジナルでは1分ちょっとだった“I Wanna Be Where You Are”がフル・ヴァージョンで聴けたり、コーラスが重ねられていない“I Want You”があったり、舞台裏の覗き見的な好奇心を満たすのみならず、リオン&マーヴィンが作り上げた〈もうひとつの魔法〉としても十分に酔わせてくれる。家宝にしますとも。
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