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第42回 ─ ローネイほか有機的なバイブを放つアーティストとその周辺を紹介

連載
360°
公開
2004/02/05   17:00
更新
2004/02/05   18:10
ソース
『bounce』 248号(2003/10/25)
テキスト
文/bounce編集部

さまざまな解釈を孕みながら、それぞれの方向へと発展を遂げている〈オーガニック・ソウル〉。その現状はどうなってるの??

ERYKAH BADU 振動する新しいバドゥイズム


 エリカ・バドゥの新作『Worldwide Underground』はもうチェックしただろうか? スタジオ録音としては3年ぶり3作目にあたる本アルバムは、以前にも増して彼女のミュージシャンとしての懐の深さ、実験的精神、独創性が強く打ち出された、まるで〈バドゥイズムの小宇宙〉を具現化したような力作となっている。

「ラジオのエアプレイとか、シングルのこととかを考えて作ったりはしなかったわ。ただ、グルーヴしていたかったのよ」。

 これまでグラミーを含む数々のアワードを獲得し、過去の作品はどれもマルチ・ミリオンを売り上げた比類なき才能の持ち主であることには間違いないが、彼女が一度として時代に目配せをしてこなかったことは誰の目から見てもあきらかだ。事実、本作の制作に着手する前の彼女は、現行のシーンにまったく興味が持てなかったという。

「音楽的にインスピレーションを受けるようなものは何も起きていなかった。すべてが退屈だったわ」。

 そして昨年、自身の命名による〈Frustrated Artist Tour〉で世界各国を回った経験が彼女の創作意欲に火を点けた。

「(ツアー名を)ああいうふうにしたのは、実際何を書いたらいいのか全然思い浮かばなくてフラストレートしていたからよ。それでクラブだけを回るツアーに出て、アンダーグラウンドの本質に立ち戻ろうと思ったの。そこにいた人たちやファンが、『Worldwide Underground』をクリエイトするために私が必要としていたエナジーを与えてくれたわ」。

 他にもインスピレーションの源として、彼女が「ストリート・ソルジャーズ」と呼ぶ、スティーヴィー・ワンダー、アース・ウィンド&ファイア、チャカ・カーン、エモーションズ、カーティス・メイフィールド、そしてボブ・マーリ-のような60~70年代のアイコンの名も挙げている。過去のトレードマークだったヘッドラップに取って替わった、アンジェラ・デイヴィス風のアフロ・ウィッグにもその影響は顕著だ。

「70年代は好きよ。自分の子供時代だし、私は母親の大ファンだから自然にインスピレーションを受けるわね。好きなスタイルを採り入れて、いまの自分のスタイルにするのがやり方。時間をかけて自分のなかに取り込んでいるつもり。できれば自分で編み出したって考えたいんだけどね(笑)」。

 本作のプロダクションは、エリカ本人に加えラシャド“リンゴ”スミス、ジェイムス・ポイザー、RCの4人から成るフリークエンシーが取り仕切っている。前述のアーティストたちの音楽性を消化した上で、さらにヒップホップやロックはもちろん、ジャズやアフロビートの要素も加わった、時にサイケデリックで前衛的な彼女のミュージシャンシップを根底から支える、実に頼もしい集団だ。

「大体において、ジェイムスが鍵盤、RCがベース、リンゴ・スミスがドラムっていうのが基本だったけど、私がドラムをプログラムしているケースも多いわね。ジャンルに関しては、みんなが好きなように感じ取ってもらっても構わないと思ってる。私は自分が気持ちいいと思える、好きな音楽を作っているだけだから。フリークエンシー(振動、周波数)が大切で、カテゴリーじゃないわ。アフリカン・ドラムを入れたのも、そのフリークエンシーが欲しかったからなの」。

 レニ-・クラヴィッツやデッド・プレズ、ロイ・ハーグローヴなど選りすぐりのゲスト陣にも、エリカ同様、時流を超越した確固たる個性派の面々が名を連ねている。

「彼らとは共通点がたくさんあって、考え方や方向性も近いのね。好きなトラックの感じや音楽も似ているし。レニーは私がこの作品に取り組んでいた時に、たまたま同じスタジオのほかの部屋で作業していて、裸足で入ってきて〈ちょっと手伝おうか〉って感じで小1時間いっしょに作業して曲が出来ちゃったのよ。デッド・プレズとは、同じように闘っているアーティストだから共感するところも多くて、やはり自然発生的にいっしょに作ったの。コラボレートする相手との間に生まれる、共同意識を愛しているわ。私たちは皆アンダーグラウンドでいることを選んでいるし」。

 彼女のような世界的スターが(アフリカに行った際に、頭に布を巻いた女性のスタイルが現地で〈バドゥ〉と呼ばれていると知らされて驚いたそうだ)アンダーグラウンドを標榜することに矛盾を感じる向きもあるかもしれない。しかしアンダーグラウンドとはステイト・オブ・マインド(心の在り方)であり、みずからのイズムに忠実であり続けることができる人間のみに与えられる称号だ。新作をリリースしたばかりではあるものの、5歳になる息子を持つ彼女は人生やキャリアにおける大きな転機を迎えていると考えている。

「まったく新しい物の見方をするようになったわ。思想や言動もそう。見捨ててはおけないようなさまざまな物事の原因について、自分なりに貢献しているつもりよ」。

 ワールドワイド・アンダーグラウンドの境地、ここに極まれり。(渡辺深雪)

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▼『Worldwide Underground』に参加したアーティストの作品を一部紹介。