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第9回――劇場

連載
KOHOLO
公開
2010/04/30   22:00
更新
2010/04/30   22:09
ソース
bounce 319号 (2010年3月25日発行)
テキスト
詩・アートワーク/青柳拓次

 

koholo_3紙を大量に積んだ舞台美術のうえに

2人の男が いる

いま まさに演目をはじめようと

している

 

娘は 客席から立ち上がり

通路階段を 降りてくる

ゆっくり すこしの躊躇もなく

 

ノースリーブ

それは それは かわいい かわいい

今夜のための 衣装のような 服を着て

 

ああ ステージへと

あがってきてしまう

 

上手のダンサーに手を差し伸べ

声をかける

「さあ おどりましょう?」

ダンサーは 演技をはじめる姿勢から

動くわけにはいかない

娘はダンサーを見つめつづける

 

「どんな大俳優だって

素人と並んだら食われてしまうよ」

かつて 映画監督から聞いた言葉が よぎる

 

ダンサーは 意を決して娘の誘いをさえぎり

袖へとひきつれていく

すぐさま 舞台中央にもどってきては

「えーみなさん

これは演出上のことではありません

もう一度 頭からやりなおします」

とアナウンス

ダンサーは 一旦そでに戻りつつ

付け加えてみる

「もしかしたら

これは演出かもしれません」

会場全体が 不意にくすぐられたように

すこし笑った

 

娘は 劇場のディレクターにうながされ

凍てつく冬の夜のなか

劇場を出て行った

 

コートも羽織らずに

 

PROFILE/青柳拓次

サウンド、ヴィジュアル、テキストを使い、世界中で制作を行うアート・アーティスト。LITTLE CREATURESやKAMA AINA、TAKU & GOROで活動する。FreeTEMPOのニュー・アルバム『Life』(ClearSound)にヴォーカル参加! その他の最新情報は、〈tone.jp/artists /aoyagitakuji/〉へ!