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あの頃のボウイを思わせる新作で活動にピリオドを打つLCDサウンドシステム

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2010/05/05   18:00
更新
2010/05/05   18:50
テキスト
文/久保憲司

 

ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場 の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返る隔週コラム。今回は、3作目『This Is Happening』で活動にピリオドを打つLCDサウンドシステムについて。『Lodger』期のデヴィッド・ボウイのように、ジェイムズ・マーフィーは世界の悲劇を背負うように歌う――。

 

ショックです。このアルバムでLCD サウンドシステムとしての活動は終わるということです。ロック青年だったジェームス・マーフィーは、ノイやリキッド・リキッドなんかの忘れられてたクラウト・ロックやニューウェイヴ・ディスコを使って、ロック・シーンをぶっ壊したクラブ・シーンに復讐するかのような1作目にして傑作アルバム『LCD Soundsystem』を作り、ソウルワックスなどのいろいろな仲間たちとクラブ・シーンをエレクトロ、ロックな方向に変えていった。

2作目『Sound Of Silver』ではそれまでのクラブにはなかった社会に対する批判や自分の気持ちをランディ・ニューマンぽく文学的に批判した。ここの部分に追求した人はぼく以外に誰もいなかったのですが、ネットで調べると“North American Scum”とランディ・ニューマンの傑作“Political Science”が似ていると書いている人が一人だけいました。

そして、今回のアルバム『This Is Happening』は実に自分の気持ちを赤裸々に語っています。「Cookie Scene」の伊藤英嗣さんによる対訳の歌詞を読みながら聴くと、〈あー、ロック・バンドやりながら生きていくのは大変だな〉と思わせてくれます。でも、別にそんな悲しいアルバムじゃないですよ。『Lodger』『Scary Monsters』の頃のデヴィッド・ボウイのようなディスコ・パンク、ニューウェイヴ・ディスコな感じなんです。ぼくも子供の頃はこんな音楽に合わせて踊り狂っていました。そして、その頃のニューウェイヴ・ディスコにはいろんなメッセージがあったんですよ。そういうのがなくなっていくのかと思うと寂しいです。

『Lodger』の頃のデヴィッド・ボウイは完全にジャンキーで、世界を救うことに絶望し、この『This Is Happening』のジャケットでジェイムズ・マーフィーが着ているようなスーツを着て、自分はもうロジャー(間借り人)として生きていくしかないという歌を歌っていたのです。ボウイはその頃、アンソニー・プライス(もう誰も知らないだろうな、今度の〈フジロック〉でブライアン・フェリーが着ていたらぼくは腰を抜かすだろうけど:笑)のスーツを着ていたんですけど、かっこ良かったです。今作のジェイムズ・マーフィーは、まさにその頃のボウイのように、世界の悲劇を背負うような感じで歌っているんです。ただ単にもうロック・シン ガーとしては引退するってだけなんですけど、でもいいじゃないですか、ダンスフロアからこんなにも切々とした思いが伝わってくるなんて。今作の“Drunk Girls”なんて、その頃のボウイの“Boys Keep Swinging”を思い出させてくれます。この頃のボウイの作品ではキング・クリムゾンのロバート・フリップ先生がよくギターを弾いていたんですが、彼がよく弾いていたようなぶっといリード・ギターも『This Is Happening』ではジェイムズ・マーフィーが弾いています。「Snoozer」で〈あの音を作るのはレスポールじゃないとダメなんだ〉(いま頃気付くかい)と語っていて、可愛いです。でも演奏はあんまり上手くないです。LCD サウンドシステムくらいになるとフリップ先生に頼めば弾いてくれたと思うんですけど、自分でやっちゃうというところが、例え〈何々みたいじゃん〉と言われながらも、全部自分たちでやってしまうDIYなDFAらしいなと思います。このへんはやっぱり、パンクを通過しているか、DJカルチャーの影響があるのか、おもしろいなと思います。

DJとして成功していたら、ロック・バンドの生活は本当に辛いと思う。DJだと一人で動けるから飛行機移動もあたりまえ。ホテルの部屋も高級な部屋に泊まれるし、食事も毎日高いところに連れてってもらえる。でもロック・バンドは大人数で移動だから、飛行機はコストがかかるからベッド付きのバスで移動、ホテルのベッドなんかで寝られない。お風呂? そんなの一生入れないよ、アリーナ・クラスのバンドにならないと。日本のツアー中は楽だけどね。あとDJはサウンド・チェックなんかしなくてもいいけど、バンドはサウンド・チェックはしなければならない。でも、ロック・バンドにはあの音楽をいっしょに演奏するという何事にも代え難い興奮があるじゃないか。だけど、同じメンバーとほとんど毎日1年半(LCD サウンドシステムはこのアルバム・リリース後、1年半ツアーをする)も演奏していたら、そういうのにも疲れていくんだろうな。でも、ジェームス・マーフィーは帰ってくると思うよ。絶対バンドって楽しいから、それはこの『This Is Happening』聴いていたらわかる。

 

▼文中に登場したLCDサウンドシステムの作品