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第26回――THE WILLARD

連載
その時 歴史は動いた
公開
2011/09/17   17:56
更新
2011/09/17   17:56
ソース
bounce 333号 (2011年6月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/久保田泰平

 



イギリスではニュー・オーダーやスミスなど、インディー・レーベル発のグループがナショナル・チャートを沸かせていた80年代中期。日本のインディー・シーンはと言えばまだまだ未成熟で、後にHi-STANDARD『MAKING THE ROAD』がミリオン・ヒットになるような出来事など夢のまた夢の時代でした。しかし、それでもライヴハウス=現場(主に東京)の熱気は高く、一部のメディアでも徐々に取り上げられるようになっていきます。なかでも、ストリート・カルチャーを幅広く紹介し、発行部数を飛躍的に伸ばしていた雑誌「宝島」は、インディー界で活動するバンドを熱心に取り上げ、発行元のJICC出版局(現・宝島社)は85年に主宰レーベル=キャプテンを立ち上げます。ここで最初にリリースされたのが、すでにシーンの人気者だったTHE WILLARDのアルバム『GOOD EVENING WONDERFUL FIEND』。「宝島」のブランド力や宣伝効果も手伝って、アルバムは異例のヒットを記録し、セールス枚数1万枚という過去に例のない数字を叩き出した〈その時〉、インディー・シーンの過熱ぶりは一気に高まり、THE WILLARDはその象徴的なバンドとしてさらに注目を集めていくのでした。

ヴォーカル/ギターのJUNを中心に、82年に結成されたこのバンドは、83年に遠藤ミチロウが編集していたソノシート・マガジン「ING'O」で初めて音源を発表し、翌84年にファーストEP『punx sing a gloria』をリリースします。彼らの出す音は、パンクをベースとしながらも非常にポップでメロディアスな特徴を持ち、ハードコア至上主義だった当時のパンク・バンドたちのなかにあって、圧倒的な個性を光らせていました。やがて、都内はおろか全国のライヴハウスにその名を轟かせていったTHE WILLARDは、ラフィン・ノーズ、有頂天といったバンドと共に〈インディーズ御三家〉と呼ばれるようになったのです。

86年夏にメジャー・デビューし、パンクという概念に囚われず新たなサウンドを貪欲に探究していった彼らは、その後も作品を重ねるごとにスケール感とオリジナリティーを増していき、メジャー・シーンを大層賑わした……と言うまでには至らず、その成果はキャッチーさに勝る後発バンドや〈イカ天〉に象徴される軽薄なブームに隠れてしまった印象もありました。しかし、THE WILLARDは歩みを止めず、メンバー・チェンジこそあったものの、現在も活動を続けています。『GOOD EVENING WONDERFUL FIEND』が幾度もリイシューされていることからも、彼らがブームによって押し出された〈時代の徒花〉ではなかったことが証明されていると言えるでしょう。

 

THE WILLARDのその時々

 

THE WILLARD 『GOOD EVENING WONDERFUL FIE-ND』  CAPTAIN/Solid(1985)

85年夏にNHKで放送された「インディーズの襲来」で全国のキッズを燃え上がらせた“THE END”を収録。フラストレーションを文学的な美学すら感じさせる詞世界へと変換し、メロディアスでドライヴィンなギター・サウンドに乗せて解き放つパッション。それまで地下音楽だった日本のパンクが、本作のヒットによって地上への道筋を見出したのは確かだ。

ラフィン・ノーズ 『ラフィン コンプリート AAトラックス』 AA

〈アルタ前〉と言えばTHE WILLARDかラフィンかってぐらい、インディー・シーンで象徴的な人気を誇っていた2組、というかJUNとチャーミーのカリスマ2人。こちらは極めてシンプルなパンク・サウンドだが、そのポップセンスに通じるところがある。現在のドラマーは元THE WILLARDのKYOYA。

L'Arc〜en〜Ciel 『ray』 キューン(1999)

THE WILLA-RDのメジャー初作『Who sings a gloria?』をプロデュースしたのは、当時PINKで活躍していた岡野ハジメ。その彼が、後に手掛けたのがラルクだ。“HONEY”におけるドライヴィンなギター・サウンドや“花葬”でのダークな美学はまさにTHE WILLARD譲り、というか岡野を介したリンクなのかと。

BEAT CRUSADERS 『P.O.A.〜POP ON ARRIVAL〜』 DefSTAR(2005)

その楽曲群からはさまざまなルーツを匂わせているが、もっとも多感な年頃に喰らったTHE WILLARDからの影響は大きい……と、たま〜に語っていたヒダカトオル。本作での数曲やTROPICAL GORI-LLAとの共作曲“STATIC BITER”などに、それを感じさせますわよ、奥様。