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冨田勲

カテゴリ
o-cha-no-ma ACTIVIST
公開
2011/12/14   17:42
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
text:松平敬

ついに宇宙との共演を果たした幻の「惑星」

『PLANET ZERO』と銘打たれた冨田勲の新譜は、タイトルから想像できるとおり、あの名作『惑星』の別ヴァージョンである。冨田の『惑星』といえば、オリジナルの音源をもとに大幅なリメイクを施した「Ultimate Edition」が今年の6月に発売されたばかりであるが、なぜ、「決定版」発表からそう遠くないタイミングで、このような別ヴァージョンが発表されたのであろうか?

3月11日の大震災からの復興支援をめざした1万人規模のチャリティーイヴェント「FREEDOMMUNE 0」が8月に計画され(会場は川崎市内の公園)、ジェフ・ミルズから灰野敬二に至る多種多様なアーティストが世界中から集結、冨田はその大トリとして出演する手はずになっていた。しかし、イベント当日、川崎を集中豪雨が襲い、この壮大なプロフェクトは開催中止を余儀なくされてしまった。自然災害からの復興をめざした企画が、ふたたび自然の脅威によってその実現を阻まれる、という何とも皮肉な結果に終わってしまったという訳だ。

『PLANET ZERO』は、この幻となってしまったイベントで冨田が演奏する予定であった内容をディスクにまとめたものである。本イヴェント用の特別な編集を施された『惑星』からの音源に、ワーグナーの楽劇《トリスタンとイゾルデ》の〈愛の死〉を加え、トランペット・ソロも参加、そしてその音楽が日の出の時間帯に合わせて演奏される、という構成から、「死と再生」がテーマとなっていることは容易に理解できるであろう。

アルバムの要所要所に挿入される「ドーンコーラス」は、このコンサートが実現されていれば大きな話題をさらったはずだ。ドーンコーラス(暁の合唱)とは、ラジオなどの無線機が明け方の時間帯に受信する電磁波のことで、あたかも森の中で小鳥がさえずるかのように聴こえるその神秘的なサウンドの正体は、太陽から放出された高エネルギーの電子が地球の磁場に捉えられた時に発生する電波であると考えられている。いわばこれは、宇宙そのものが奏でる音楽であり、冨田はこれを人間の生み出した音楽と共演させようと目論んでいたことになる。そして、アルバム冒頭、ドーンコーラスに重ねて演奏されるのが、『惑星』のUltimate Editionで追加された新曲《イトカワとはやぶさ》だ。「はやぶさ」は、小惑星イトカワへ旅したあの探査船の名、そして、イトカワの名前の由来となった糸川英夫博士は「日本の宇宙開発の父」と呼ばれ、冨田とも親交のあった人物である。つまり、この作品はその両者に対するレクイエムであるということだ。はやぶさもイトカワも宇宙への憧憬を象徴するアイコンであるが、そのオマージュとしての作品が宇宙から降り注ぐ音楽と共演する、という冨田のアイデアはなんとロマンチックなのだろう。さらに、本編の《惑星》も当然ながら宇宙をテーマとした音楽であり、冨田のアレンジが、宇宙船に乗って実際にそれらの惑星に旅をするかのような発想で作られていることは、古くからの冨田ファンにはもはや説明無用の基礎知識であろう。現時点では、気軽な宇宙旅行ができない私たちにとって、宇宙の存在をじかに体感することは難しく、こうした音楽を聴いて宇宙の壮大さをイメージするのが関の山であるように思われる。しかし、このような音楽から喚起される「想像」が、宇宙から降り注ぐドーンコーラスや、地球と宇宙のつながりを実感させる自然現象である「日の出」と結びつけられることによって、宇宙は地球と地続きであり、さらに私たちの肉体へも繋がっているという「体感」へと変容され、その感覚によって自然への畏敬の念を再認識する、そんなことを冨田は考えたのではないだろうか。

さて、このドーンコーラスと同様に印象的なのが、本ヴァージョンのために新たに付け加えられたトランペット・ソロである。前述の《愛の死》、そして《木星》のあの有名なメロディがトランペット(演奏:本間千也)によって朗々と歌い上げられる場面は、本アルバムのハイライトといえるだろう。宇宙空間で合唱するかのようなシンセサイザーの荘重なサウンドとトランペットの音色との相性は抜群、本間が奏でる美しく伸びやかなサウンドや、永遠に続いていくかのようなメロディの流れは、それ自体が暁光のようだ。

ちなみに、もしもこのコンサートが実現していたら、このトランペットの音色が夜明けの光と「共演」していたはずであるが、それは音と光の共演という意味合いにとどまらず、「惑星」に太陽が加わって太陽系が完成という目論見だった、などというのは穿ち過ぎであろうか?

幻となったコンサートの様子を想像しながら聴くもよし、既存の『惑星』をどのように再構成したのかマニアックに聴き比べるもよし、冨田の『惑星』を未体験の人にも、体験済みの人にも是非とも聴いていただきたい一枚だ。

LIVE INFORMATION
『HARAJUKU PERFORMANCE + DOMMUNE』
12/23(金)ラフォーレミュージアム原宿
※小室哲哉とのトークイヴェント
http://www.dommune.com/harajuku/