こんにちは、ゲスト

ショッピングカート

NEWS & COLUMN ニュース/記事

坂本龍一

カテゴリ
o-cha-no-ma ACTIVIST
タグ
commmons
公開
2011/12/16   12:40
ソース
intoxicate vol.95(2011年12月10日発行)
テキスト
文 小沼純一(音楽・文芸批評家/早稲田大学教授)

ピアノ・ソロ・ツアー『path』と
『schola』最新刊「サティからケージへ」

2011年、多くのひとにとってはもしかするとすでに既成事実であり慣れた行為のひとつだったのかもしれないが、すくなくともわたし自身にとっては、文字 どおり「現在進行」しているライヴ/コンサートを、ネットを介して視聴することが特別なことではなくなった年として記憶される……ような気がする。坂本龍 一については、韓国でのピアノ・ソロ、ヨーロッパでのトリオ、合衆国でのYMOにそうしたかたちで接しえた。

かつてであっても、もちろん、TVの中継があったし、音のみのものはいくらもあった。その意味ではさして驚くべきことではないのかもしれないが、さほど大 掛かりな装置もなく、リアルタイムに多くのひとが手軽に接することができるというのは、大きなポイントだろう。そしてtwitterやfacebookと いったSNSを、併行させることで、視聴者どうしのコミュニケーションが可能になる。もし〈その場〉であるなら、集中してステージを観る、音楽を聴く、場 を体感することになるのだろうが、幸か不幸か、べつのところにいるがゆえに、そしてその気軽さゆえに、こうした視聴者どうしのやりとりもあまり違和感がな い。それでいて、「いま、あそこでやっている」という感触、距離はあったとしても、「いま・現在」感は、各人が持ちうるだろう。

いくつかはネット配信された坂本龍一のライヴ/コンサートだが、きちんと映像=音響として編集されたものがDVDとしてリリースされる。

この3年にわたってのピアノ・ソロ・ツアーを集めたもので、『path』と題された3枚組である。内容はそれぞれ、2009年のヨーロッパ、2011年のソウル、2010年の合衆国と2011年の韓国。基本的にボックスだけれども、1枚ずつの販売もおこなわれるとのこと。リアルタイムで接するのとは異なった環境であり、異なった音質であるDVD。手元においておくための保存版。こうした異なった視聴のありようが可能なのが、「いま」なのだと、あらためての実感である。

実物の、ナマの坂本龍一については、12月25日から4回にわたっておこなわれる銀座・YAMAHA HALLでのライヴを忘れてはなるまい。毎回異なったゲストを招いているのが特徴で、大貫妙子、大友良英、細野晴臣、東野珠美とどの日もきにならずにはいない。けっして広くない場所だからこそのアンティームな雰囲気、そして絶妙のトークが楽しめることだろう。

さて一方、この号を手にとった方は、もうすでにご覧になっているかもしれないが、TVでも二期目が好評と聞く『schola』、最新刊は『サティからケージへ』が刊行されたばかりである。

この巻の曲目案は、僭越ながら、わたくし、つくっております(曲目解説もしています。でもこちらには正直、ちょっとだけミスがあるんですが……)。サティからケージへの一直線の道すじではない。いや、そんなふうにできなくもないけれど、そうするとサティに潜在している複数の可能性が、べつの線が消えてしまう。そんなところから、「サティ」と「ケージ」という二つのポイントを定めつつ、あいだにはサティの引力、というか、サティの圏域にあるものをいろいろいれている。おなじフランスではジャン・ヴィエネル。スペイン・カタルーニャのモンポウ。この2人は、コクトー周辺にいたプーランクやミヨーら「6人組」を故意にはずして、代入したもの。合衆国では、坂本龍一とゆかりのある二作曲家がケージとのあいだにはいってくる。アルバム『未来派野郎』にある「バレエ・メカニック」のジョージ・アンタイル、『シェルタリング・スカイ』のポール・ボウルズ。ジョン・ケージについては、ごく初期の十二音技法による作品でも、プリペアド・ピアノの作品でも、偶然性を用いた作品でもなく、とてもスタティックで短い《エクスペリエンス》が最後を飾る。ケージの後年の音楽は、またべつの巻のおたのしみ、というわけで。

で、サティ自身だけれども、世に多々ある──あった?──サティ名曲集などとはかなり違う。定番たる《ジムノペディ》《グノシエンヌ》《ジュ・トゥ・ヴ》はなし。かわりにヴァイオリン曲やオーケストラ曲、武満徹編曲による《星の息子》がはいってくる。《シネマ》から《ソクラテス》、さらに《家具の音楽》など、国内盤ではいまやあまりみつからないものがならぶ。このあたり、ちょっと誇りたい。そして、《スポーツと気晴らし》を全曲いれることで、サティのエッセンスをみたい。

この巻がでて次は、というのもいささか性急な話だが、『schola』、現在は、そう遠くないうちにおこなう鼎談のために、いわば「作業中」というところ。尤も、これはいつものことでもあるわけだが、次回はなにしろ「映画音楽」だから、ふつうに音楽を単体として扱うのとはまたべつの難しさがある。そんな難しさも鼎談のなかではきっとでてくるとおもわれるので、乞うご期待。

LIVE INFORMATION
『坂本龍一:playing the piano 2011~「こどもの音楽再生基金」の為に~』
2011年12月25日(日)17:00開演 大貫妙子
26日(月)19:00開演 大友良英
27日(火)19:00開演 細野晴臣
28日(水)19:00開演 東野珠実
会場:ヤマハホール
http://www.diskgarage.com/info/ptp2011/