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アリーナ・イブラギモヴァ

カテゴリ
o-cha-no-ma ACTIVIST
公開
2012/04/16   17:25
ソース
intoxicate vol.96(2012年2月20日発行号)
テキスト
文 片桐卓也

個性と即興性と優れたテクニックによって輝きを放つ

「アリーナを聴いた?」 昨年の11月ごろ、ヴァイオリン好きの間では、コンサートで顔を合わせると、そんな質問が飛び交っていた。

私は白寿ホール(東京・富ケ谷)で行なわれたバッハの無伴奏のコンサートを聴きに行った。もともと響きの豊かな小ホールだが、アリーナ・イブラギモヴァのヴァイオリンの響きは、その会場の隅々にまで広がって、時に熱く、聴衆を包んで行った。すでに彼女自身の録音もある作品だが、実演のほうがより興味深い演奏だった。

アリーナ・イブラギモヴァはロシア生まれ。父親はコントラバス奏者で、その父とともにイギリスに移った。20世紀を代表するヴァイオリンの巨匠メニューインの薫陶を受け、彼の指揮で演奏したこともある。

イギリスの有名な音楽プロデューサーであるハンフリー・バートンはメニューインの伝記の中でわざわざアリーナの演奏について触れているぐらい、イギリス及びヨーロッパでは注目の存在であった。

ロンドン王立音楽院での研鑽(教師の中にはクリスティアン・テツラフの名も見える)に加え、彼女が本格的なソロ活動を始めたのは2002年のこと。2007年にウィグモア・ホールにデビュー、そしてハルトマンの作品集をハイペリオンからリリースするなど、活動を本格化させた。日本には2005年に初来日。その時に武蔵野市民文化会館で演奏し、その一部(バッハの無伴奏パルティータの第2番)がNHKで放映されたこともある。

2011年11月白寿ホールでの演奏会は、バッハの無伴奏パルティータ第1~3番を演奏した。ほとんどヴィヴラートのない、いわばピリオド奏法よりの演奏だが、その奏法により、バッハの音楽の持つ音の流れがクリアに聴こえ、立体的な音の構造もよく伝わる。しかも、 単に楽譜に忠実という演奏ではなく、おそらく会場、聴衆の雰囲気、その日の自分のテンションなども含めて、即興的にフレージングを考えてゆく、そんな演奏である。それによって、まさにバッハの音楽がリアリティを持って伝わって来た。その後、アリーナは名古屋フィルに客演してショスタコーヴィチのヴァイオリン協奏曲第1番を演奏したのだが、 それに遠征した友人の話では、過去の名演を超える凄絶な演奏だったらしい。都合がつかずに聴けなかった自分を呪った瞬間であった。

© Rikimaru Hotta

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