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アリベルト・ライマンのオペラ「メデア」「リア」──日生劇場50周年記念特別公演で2年連続日本初演

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公開
2012/07/06   19:06
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
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text : 池田卓夫(音楽ジャーナリスト)

二期会60周年、読売日本交響楽団50周年と連携指揮は下野竜也に一任!

アリベルト・ライマン/Aribert Reimann (1936年ベルリン生まれ)の名前は、日本の一般的音楽ファンの間では、ディートリヒ・フィッシャー=ディースカウ(バリトン)らの名歌手とリート(歌曲)デュオを組むピアニストくらいにしか認知されていない。実際には、1965年にキールで初演された『夢の劇』(ストリントベルイ原作)から2010年ウィーン国立歌劇場初演の『メデア』に至るまで8作のオペラ、おびただしい数の歌曲を創造し、現代ドイツ屈指の「うた」の作曲家と言える。

村野藤吾設計の日生劇場は1963年、ワーグナー『トリスタンとイゾルデ』、ベルク『ヴォツェック』それぞれの日本初演を含むベルリン・ドイツ・オペラ初来日で開場した。以来、ドイツ語圏の近現代オペラの紹介に力を入れる。

ニッセイ文化振興財団の田口弥理事長は「半世紀にわたる文化支援の節目に当たり、2年連続の企画を立てた。ベルリン・ドイツ・オペラの演目だった『フィガロの結婚』『フィデリオ』の新演出を一般向け、青少年のためのオペラ教室の両方で制作する一方、特別公演としてライマンの『メデア』『リア』2作の日本初演に挑む」と、50周年記念公演の概要を明らかにした。

歌手は52年発足の東京二期会、管弦楽は62年設立の読売日本交響楽団が一貫して担当し、それぞれの60周年、50周年を日生劇場とともに飾る。東京二期会の高丈二理事長は「3団体の力強い絆、作曲家立ち会いの初演で完成度の高いプロダクションになると確信する」と述べた。

ライマン2作の指揮は2006年から読響正指揮者、13年以降は首席客演指揮者となる予定の下野竜也が受け持つ。同響の横田弘幸理事長は「なかなか技術の手ごわい作品も、下野さんに任せれば安心できる」と期待。下野は早速、5月15日のサントリーホール定期演奏会でライマンの《管弦楽のための7つの断章》を日本初演、オーケストラと作曲家の距離を少しずつ縮める作戦に出た。

『メデア』は今年11月9、10、11日の3公演でダブルキャスト。演出の飯塚励生はニューヨークで生まれ育ち、メトロポリタン歌劇場演出部に籍を置きながら日本でも実績を積む新進。「電話を頂いた時点でギリシャ悲劇やケルビーニのオペラ、パゾリーニの映画などの『メディア』を思い浮かべた。ライマンはオーストリアの劇作家フランツ・グリルパルツァーが1821年に発表した『メデア』に基づいて作曲したと聞き、原作を読んだら別世界。より人間的に描き、論理も生理もあるメディアが出てくる。愛や感情を求めパワフルに生きた女性像を現代の日本人に伝えたい」。飯塚はこう、抱負を語る。

下野は「マニアックなレパートリーの指揮者」を自負するが、今回は「この上ない喜びとばかり言えない難しさがある」。現場では「作品の素晴らしさを具現するポイントとして、難しさを逆手にとる」作戦。「評論家や記者の皆さんも1回聴いただけではわからないから、ぜひ、リハーサルにいらして下さい」とエール?を送られたが、正論である。受けて立つ構えで原作のペーパーバック(DODOPRESS版)とミヒャエル・ボーダー指揮、マルコ・アルトゥーロ・マレッリ演出、マーリス・ペーターゼン主演のウィーン初演のブルーレイ・ディスク(ARTHAUS MUSIK101 552)を取り寄せ、予習に励むこととした。

一方の『リア』はシェイクスピアの『リア王』が原作。バイエルン州立歌劇場の委嘱で1978年にゲルト・アルブレヒト指揮、ジャン=ピエール・ポネル演出で世界初演された。ライマンの盟友、フィッシャー=ディースカウのために書かれたもので、初演ライヴの国内盤CD(ドイツ・グラモフォンUCCG-3013 /4)は10数年前にユニバーサルが発売、渡辺護の日本語対訳が付いている(*)。フィッシャー=ディースカウは日生の開場記念公演に出演、『フィガロ』の伯爵と『フィデリオ』のドン・フェルナンドを演じた。4月10日、帝国ホテルでの記者会見には生前最後のビデオ・メッセージを寄せ、「日本人のドイツ音楽を理解する上での集中力、声高ではない声援に長年、勇気づけられた」と感謝した。(*)現在は輸入盤のみ

『リア』は78年の初演以来ほぼ切れ目なく再演され、2011/12年のシーズンもフランクフルト市立劇場オペラでセバスティアン・ヴァイグレ指揮、キース・ウォーナー演出の再演があったばかり。2013年11月8、9、10日、下野指揮読響の上演は日本演劇界の重要人物、栗山民也が演出する。「まだ先の上演なので」と前置きしつつも、栗山は「王国の崩壊」を昨年の東日本大震災の体験に重ねる一方、「シェイクスピアの言葉や感情がライマンの音楽によってどう変わったのか」を見極め、「日生劇場をはみ出すほどコントラストのある〈リアの宇宙〉をつくり、御客様と共有したい」と語った。

舞台芸術にかかわる日本の才能の、総力戦である。

写真:アリベルト・ライマン
(c)Schott Promotion/Gaby Gerster

日生劇場(東京日比谷)

日生劇場開場50周年記念 第1弾 オペラ「メデア」

11/9(金)19:00開演
11/10(土)14:00開演
11/11(日)14:00開演
約2時間(休憩含まず)

下野竜也(指揮)
飯塚励生(演出)
読売日本交響楽団

キャスト
メデア:飯田みち代(11/9、11)大隅智佳子(11/10)
ゴラ:小山 由美(11/9、11)清水華澄(11/10)
イヤソン:宮本 益光(11/9、11)与那城敬(11/10)
クレオン:高橋 淳(11/9、11)大野徹也(11/10)
クレオサ:林美智子(11/9、11)山下牧子(11/10)
ヘロルド:彌勒忠史(全日)

オペラ「リア」

2013/11/8〜10

下野竜也(指揮)
栗山民也(演出)

会場:日生劇場(東京日比谷)
http://www.nissaytheatre.or.jp/

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