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第36回――杉山清貴と林哲司

連載
その時 歴史は動いた
公開
2012/07/18   00:00
更新
2012/07/18   00:00
ソース
bounce 346号(2012年7月25日発行)
テキスト
文・ディスクガイド/出嶌孝次


杉山清貴_A

さまざまな邦楽作品の評を眺めていると、〈シティー・ポップ〉や〈AOR〉の影響下にある作品が最近多くなってきた……というような表現を目にするが、そのようには形容されていなくても、そういったサウンドの評価される状況がもう10年以上も顕在化しているということは、心あるリスナーならとっくに感じ取っていることだろう。そして、そうした世の流れとは無縁の境地で我流のアダルトなポップ・サウンドを紡ぎ続けているのが杉山清貴である。

以前も本連載でオメガトライブが取り上げられたことはあるから、どんだけオメガ好きなんだよという感じだが、杉山と共に時代の音を作り出してきた林哲司とのコラボレーションの歴史がまとめられたのだから、改めて紹介しないわけにいかないだろう。この二人の共演には、ボズ・スキャッグスがボビー・コールドウェルの"Heart Of Mine"を取り上げたのと同じぐらいの意味があるのだ。

80年代初頭、成功を夢見る若手バンドのフロントマンと、頭角を現してきた気鋭のコンポーザー/アレンジャーとして両者は出会った。もともとドゥービー・ブラザーズのカヴァーをやっていたバンドが杉山清貴&オメガトライブとしてデビューすることになり、林はそのサウンド構築を担うブレーンのひとりだったのだ。バンドは林の手によるデビュー曲"SUMMER SUSPICION"からヒットを飛ばし、 オリコン1位を獲得した ふたりの夏物語 など80年代ならではの名曲群を残して85年に解散する。

杉山は翌年のソロ・デビュー・シングル さよならのオーシャン を大ヒットさせ、独力で順調な滑り出しを見せていた。オメガのブレイクによってさらに売れっ子となった林も、別メンバーで続いたオメガのプロジェクトから離れていた。そんな両者ではあったが、独り立ちした杉山が改めて林にアレンジを依頼した〈その時〉、オンリーワンなふたりの夏物語は以前とは違う関係性で動きはじめたのだ。こうして生まれた 風のLONELY WAY(88年)はオリコン1位に輝く大ヒットに。続く 僕の腕の中で も ふたりの夏物語 と同じJALのCM曲として人気を博した。杉山のヴィジョンを具体化できるセンスの持ち主として林はやはり欠かせない存在だったのだ。

両者の縁は関わり方を変えながらも緩やかに続き、02年には杉山のシングル"Wishing Your Love" を林がプロデュースする形で再会。そして〈作曲家とシンガー〉という関係を超えて、昨年には丸ごとふたりで初めて共同コンポーズを手掛けた共作アルバム『REUNITED』をリリース。先述したようなサウンドが幅広いリスナーに受容されやすくなっているのだとしたら、ふたりの音楽も単純に〈大人向け〉だとは言い切れないだろう。

 

杉山清貴×林哲司のその時々



杉山清貴 『Tetsuji Hayashi Selection 杉山清貴×林哲司「The Collaboration Best」』 バップ

ソロ・デビュー後の杉山×林のコラボ歴を集大成したベスト盤。バンド時代よりナチュラルな感触を狙ったような80年代後半のヒット群もいいが、オメガへのオマージュという遊び心も自然に出てきた近年の音源が素晴らしい。しかし、どこから聴いても杉山のジェントルな歌声が本当に変わってないのは凄い!

 

杉山清貴&オメガトライブ 『Tetsuji Hayashi Selection 杉山清貴&オメガトライブ「The Other Side of The Omega Tribe」』 バップ

こちらは83〜85年に録られた杉山&オメガの音源から、林自身が選り抜いた編集盤。マイルドなファンクや倍速でディスコ化するスロウ、西海岸の薫るAORなど洒脱な楽曲群は、ヒット・シングルだけの印象を更新すること必至だ。こだわりの貫かれた意匠はいま聴いてこそ。

 

林哲司 『林哲司ヴォーカル・コレクション -TIME FLIES-』 バップ

そもそもはシンガー・ソングライター志向だった林。本作は村上“ポンタ”秀一や今剛らを従えた88年の自曲カヴァー集『TIME FLIES』に、デビュー作の表題曲“BRUGES”(73年)やC.C.ガールズとのコラボなどを追加した編集盤。温かみのある歌声が快く響く名曲選だ。

 

杉山清貴 『KIYOTAKA SUGIYAMA MEETS TETSUJI HAYASHI REUNITED』 バップ(2011)

2009年のシングル“Glory Love”を経て実現した共作アルバム。楽曲の提供関係から互いの個性をぶつけ合う双方向のコラボに発展したことで、作風もそれまで以上に広がっている。流麗なデュエット“I Write A Song For You”がハイライト。