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今、ふたたびのマリリン・モンロー

カテゴリ
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公開
2012/08/14   16:51
ソース
intoxicate vol.98(2012年6月20日発行号)
テキスト
text:吉川明利(タワーレコード本社)

今や、多くの映画ファンにとっては、物心付いた時にはマリリン・モンローという女優は、すでにこの世になく、まずは彼女の〈伝説〉から入った世代の方が多いのでないでしょうか。女優活動の全盛期は1953年から約6年という短いものでした。すなわち〈モンロー・ウォーク〉で一世を風靡し、セックス・シンボルとして名を馳せた『ナイアガラ』から、ゴールデン・グローブ(ミュージカル・コメディ部門)の主演女優賞に輝いた『お熱いのがお好き』までです。よって、リアルタイムで彼女の作品をスクリーンで見ることが出来た方は、どんなに若くても現在60代後半(15歳で『お熱いの〜』を見ていたらとして)ということになりますね。要するに、それ以下の世代は、現在のようにDVDで見ることも出来なかったため、何とかリバイバル公開のあった『帰らざる河』を見るか、名画座をめぐって『七年目の浮気』を見たのがせいぜい。そう、マリリンへの入口は、まずは有名なプレイボーイ誌の〈ヌード写真〉であったり、〈死の真相の報道〉であったりと、実は映画以外のところからだったのです。

今年、没後50年にあたりマリリンの出演映画で、20世紀フォックス社が販売権利を有する作品が、ジャケットをリニューアルして15作品がDVDで、代表作5作品が新たにブルーレイ化(既発のブルーレイ3作品も加えたBOXも同時発売。ブルーレイBOXのみの特典5曲入りサントラCDが封入されている!)となりました。これはファンにとっては大変嬉しいニュースと共に、マリリン・モンロー再発見の良い機会ではないでしょうか。

まず、マリリン・モンローは女優であると同時に、シンガーでもありました。ミュージカル女優と言っても良いと思います。若い方で、もしご覧になっていないのでしたら、一番最初に『紳士は金髪がお好き』をお薦めいたします。最も有名なナンバー《Diamonds Are a Girl's Best Friend》の場面を見たなら、いかにマリリンが、あのマドンナに多大な影響を及ぼしたかが分かるでしょう。実は、個人的には共演のジェーン・ラッセル(マリリンとジェーンは、仲良くチャイニーズ・シアターに手形を残していますね)と掛け合いで歌い踊る《Two Little Girls from Little Rock》のナンバーの方が好きです。何故ならこのナンバーこそ、ジャック・ドゥミ監督が1967年に製作したフレンチ・ミュージカル『ロシュフォールの恋人たち』へ継るからです。『ロシュフォール〜』の中でカトリーヌ・ドヌーブとフランソワーズ・ドルレアック姉妹が歌い踊る場面は『紳士が〜』無くしては生まれなかったでしょう。エセル・マーマン主演作品『ショウほど素敵な商売はない』ではマリリンは脇役ですが、用意された唯一のソロミュージカルナンバー《Heat Wave》の迫力は圧巻ですね。当時、こうしたミュージカル場面は、映画を見れば分かることですが、それぞれのナンバーは、ほぼワンカットで収録されているのです。要するに出演する限り1曲歌いきる実力がなくてはならないのです。『帰らざる河』での、荒くれカウボーイ達を前にして唄う酒場の歌姫役のマリリンは《One Silver Dollar》や《I'm Gonna File My Claim》を見事なワンカットで(シネマスコープ画面の効果を生かしながら)歌いきっています。

マリリンはコメディを演じられる女優でもありました。シネマスコープ第2作目の『百万長者と結婚する方法』は、ベティー・グレイブル、ローレン・バコールと共演した、元祖『セックス・アンド・ザ・シティ』と言ってもよい、ニューヨークで働くモデル3人娘のお話です。そこでマリリンはド近眼の役で大いに笑わせてくれます。そしてマリリンのコメディとしての代表作となると、やはりビリー・ワイルダー監督作『七年目の浮気』と『お熱いのがお好き』ということになるでしょうか。『七年目〜』の、地下鉄の通気口に立ち、白いスカートがふわりと浮き上がるシーンを最初に見た男性ファンのほとんどが〈あれっ、こんなもんなの? 全身映っていないじゃないの!〉と思ったでしょう。そうなのです、当時のアメリカ映画は性的描写に厳しく、足元を映すだけが限界だったのです。写真で見ることの出来る、マリリンの4ポーズぐらいあるスカートのまくれ上がったものは、全部宣伝用スチールだったのですね。この撮影現場を見た、当時の夫であったジョー・ディマジオが激怒して離婚につながったのは有名な話。AFI選出による『ベスト・ハリウッド・コメディ100』で堂々の第1位に選ばれている『お熱いのがお好き』は、当然ながらマリリンのコメディ映画としてもTOPです。トニー・カーティスとジャック・レモンという芸達者な二人に囲まれて楽し気に演じている、このシュガー役は本当に可愛らしく魅力的です。撮影現場がマリリンの不安定だった精神状態のおかげて大混乱だったとしても、出来上がった作品が面白いものになっていれば文句はないでしょう。1953年に『ナイアガラ』でマリリンがスターとなったのと同時期に、まったく正反対の魅力を持つオードリー・ヘプバーンの『ローマの休日』が登場しています。ワイルダーは『麗しのサブリナ』『昼下がりの情事』というオードリーの主演映画も撮っています。この二人のタイプの違う女優の、それぞれの代表作を作っているなんて、さすがビリー・ワイルダーですね。ワイルダー以外にマリリンと仕事をした監督たちはジョゼフ・L・マンキーウィッツ、ヘンリー・ハサウェイ、ハワード・ホークス、ジョージ・キューカー、ジョン・ヒョーストンなど、なんと豪華な布陣でしょう。それだけマリリン・モンローが女優として一流であったという証拠なのではないでしょうか。マリリンがFOXを離れ、自身の独立プロで製作した唯一のワーナーブラザース映画『王子と踊子』も、このタイミングでブルーレイにして欲しいものですね。