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Music Weeks in TOKYO 2012

Music Weeks in TOKYO 2012(2)

公開
2012/09/03   19:34
ソース
intoxicate vol.99(2012年8月20日発行号)
テキスト
文/林田直樹


エリアフ・インバル©Sayaka Ikemoto

今回のエリアフ・インバル指揮東京都交響楽団、そして今回の主役でもある、精鋭メンバーによるプロ合唱団「スーパー・コーラス・トーキョー」による《嘆きの歌》は、日本におけるマーラー受容史上、画期的な上演となるだろう。

インバルは日本で指揮するようになってから40年近くになるが、《嘆きの歌》を日本で指揮するのは初めて。日本にマーラーを定着させた功労者の一人であるインバルとしても「ぜひやりたかった」作品だという。9月から開始される都響との新マーラー・ツィクルスの一環としても位置づけられる重要なコンサートなのである。しかも今回は《嘆きの歌》の前に《ジークフリート牧歌》が演奏される。ワーグナーとマーラーとの関連をインバルが意識しているのは明白だ。

注目すべきは、合唱指揮をロベルト・ガッビアーニが担当していること。かつてはムーティの右腕としてミラノ・スカラ座合唱団を鍛え上げ、その後はローマでパレストリーナを研究。オペラのみならずルネサンス音楽から現代音楽に至るまで、精緻な合唱を構築する魔術師として知る人ぞ知る存在だ。イタリアのベルカントの真髄を知り抜く指導者であるガッビアーニは、これまでの『Music Weeks in TOKYO』のみならず『東京・春・音楽祭』でも、日本の合唱団相手に発声の基礎から叩き込み直しつつ、その卓抜な手腕を示してきた。

そのガッビアーニがマーラー作品の合唱を手掛けるとどうなるのか? そしてインバルがそれを統率すると何が起こるのか? 期待は大きい。しかもソリストは国際的に活躍する浜田理恵や小山由美など、実に贅沢な布陣である。

ところで今回の《嘆きの歌》上演の枠組みとなっている『Music Weeks in TOKYO 2012』は、2010年から始まって今年が3年目となる。今年の企画を中心的にやっているのは東京文化会館だが、公演場所はそこに限らない。《嘆きの歌》は、10月3日は上野だが、4日はオリンパスホール八王子である。また立川市市民会館や江戸東京たてもの園などでの『まちなかコンサート』もある。リチャード・ストルツマン(クラリネット)、ジュリアーノ・カルミニョーラ(ヴァイオリン)、ザハール・ブロン(ヴァイオリン)、ピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)が行う豪華なマスタークラス『東京音楽アカデミー』も、上野に限らない。ブロンのうち2日間はパルテノン多摩である。要するに企画主体は東京文化会館でも、地域的には都心から八王子まで幅広い。

これは近年のコンサートシーンのある傾向を物語っている。すなわち、中央と地域の音楽文化が、連関していくべき時代になりつつあるということだ。今回の『Music Weeks in TOKYO』が西東京地区に展開しているのは、そうした意味を含んでいる。

従来日本の音楽界において、今回の《嘆きの歌》のような重要な、先端を行く企画は、中央でしか成立しえない、特権的な出し物であった。それを聴きたい人は、わざわざ遠路はるばる都心にまで足を運ばなければいけなかった。それは〈格差〉と言い換えてもいい状況であった。

だが、今回の《嘆きの歌》のように、中央の企画が、地域の企画と連関することによって、ふだん平日の夜に上野にやってくるコアなクラシック音楽ファン以外の人々にも、こうした重要なコンサートに行くチャンスが生じることになる。

たとえば、立川や八王子近辺には、地域の音楽教室や学校の関係者、中高生や大学生、さらには高齢者など、かなりの音楽好きであっても、平日に都心まで足を運ぶのはちょっと…という層は多い。たとえ普段接しているのがピアノ音楽ばかりであっても、その中には、こうした重要なマーラーの上演に出会うことで、大きく心を動かされるに違いない人々が大勢存在するのである。

『Music Weeks in TOKYO』が西東京地区に展開していることは、普段の都心のコンサートホールで見かける人々とは異なる、たくさんの層の音楽好きにとってのチャンスでもある。

今回の《嘆きの歌》の上演が、マーラー好きのみならず、シューマンやワーグナーなどドイツ・ロマン派に関心あるすべての人々、そしてピアノや合唱やオペラのファンなど、多種多様な人々に刺激をもたらすものになりますように!

Music Weeks in TOKYO 2012

スーパー・コーラス・トーキョー特別公演
10/3(水)19:00開演 会場:東京文化会館大ホール
10/4(木)19:00開演 会場:オリンパスホール八王子
出演:エリアフ・インバル(指揮)
ロベルト・ガッビアーニ(合唱指揮)
浜田理恵(S)小山由美(M)福井敬(T)堀内康雄(Br)、東京都交響楽団、スーパー・コーラス・トーキョー
曲目:ワーグナー:ジークフリート牧歌、マーラー:カンタータ《嘆きの歌》

まちなかコンサート~音楽会へあそびにいこう!~
10/6(土)15:00開演
会場:立川市市民会館(アミューたちかわ)大ホール
出演:高関健(指揮)中井美穂(ナビゲーター)
ロベルト・ガッビアーニ/安部克彦(合唱指揮)、 東京フィルハーモニー交響楽団、スーパー・コーラス・トーキョー

まちなかコンサート~芸術の秋、音楽さんぽ~
10/7(日)8(月・祝)13(土)14(日)21(日)27(土)28(日)
会場:子宝湯(江戸東京たてもの園)、東京文化会館キャノピー、上野恩賜公園野外ステージ、上野動物園ほか
出演:東京音楽コンクール入賞者等を中心とする新進演奏家グループによるアンサンブルやソロ

東京音楽アカデミー
○マスタークラス
リチャード・ストルツマン(クラリネット

9/15(土)13:00開講
会場:東京文化会館小ホール
ジュリアーノ・カルミニョーラ(ヴァイオリン)
11/6(火)19:00開講
会場:トッパンホール
ザハール・ブロン(ヴァイオリン)
12/18(火)~21(金)14:00開講/
12/23(日)~24(月・祝)10:30開講
会場:パルテノン多摩小ホール(18日・ 19日)、めぐろパーシモンホール小ホール (20日・21日・23日・24日)
ピーター・ウィスペルウェイ(チェロ)
2013年2/20(水)・21(木)14:00開講
会場:東京文化会館小ホール

○ファイナル・コンサート(マスタークラス各コース優秀受講生による演奏会)
2013年3/16(土)14:00開演
会場:東京文化会館小ホール

http://www.t-bunka.jp/mwit2012/


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