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Keith Jarrett Trio

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2013/05/09   16:19
ソース
intoxicate vol.103(2013年4月20日発行号)
テキスト
text : 高見一樹

Somewhere, Before, and After...

キース・ジャレット・トリオのCDにおける沈黙は2002年7月『アップ・フォー・イット』から、10年間つづいた。そして突然、このライヴ盤『サムホエア』の発売とそれに続く公演をもって、30年続いたトリオは、完全に沈黙する。5月には日本公演が決まっているが、それがこのトリオの音楽にライヴで接することができる最期の機会となる。

あらゆるピアノファンがジャンルを超えて聴いてきたキース・ジャレットのピアノソロへの世界的関心があってこそ、なのだろうが、このトリオは、ジャンルを超えて多くの音楽好きの耳をジャズにひきつけてきた。スタンダーズと名乗りをあげ、ジャズの名曲を演奏するのだというマニフェストを掲げたことによって、頑固なジャズファンももはや聴かずにはいられない音楽となり、ついにはその魔法の虜となった。しかし、頑なに孤高のピアノソロの世界に浸っていたキースが突然その姿勢を軟化させて、ピアノトリオでジャズのスタンダードアルバムを発売したときの衝撃は、当時、凄まじいものがあった。かつての、「これはジャズか?」という際どさではなく、「これはスタンダードか?」くらいにはジャズ界を揺らした。

そのスタンダーズの13年前に制作された、『Tales of Another 』(ECM/1977)というゲイリー・ピーコック名義の、この3人のアルバムがある。ゲイリー、キース・ジャレット、ジャック・ディジョネットの3人が、そして世界が、彼らの音楽に接触したのはこのアルバムが最初だった。いまでは周知の、彼らのコレクティブな演奏/即興作法の、最初のひとふりが、記録されている。振り返ってみるとその音楽は、とても美しい気配を漂わせ、『Changes』『Changeless』などとタイトルを変化させながら、今日まで我々が知っている、ジャズという音楽にまとわりつき、ジャズというドグマを翻弄してきた。

2002年の『アップ・フォー・イット』がすでにそうだったが、何を演奏するにしても、存在していたこの3人固有の緊張は、すでにこのトリオからは溶けていた。その7年後のこのライヴの演奏も、すでにある種の寛容の中で、演奏が進んでいく様が聴こえる。この雰囲気は、かつてジャック・ディジョネットに代わってポール・モチアンが参加したライヴ盤『At Deer Head Inn』の雰囲気にそっくりだ。いつもと違う、のどかにグルーブを楽しむ聴衆と3人。まさにその雰囲気だ。あるいは、この時すでに、おそらく3人の視線が交わるところに、“Fin”の3文字が見えていたのかもしれない。

LIVE  INFORMATION
『キース・ジャレット・トリオ結成30周年記念公演』

5/6(月・祝)、5/9(木)、5/15(水)18:00開場/19:00開演
会場:渋谷Bunkamuraオーチャードホール(東京)

5/12(日)18:15開場/19:00開演
会場:フェスティバルホール(大阪)

http://koinumamusic.com/concert/trio30thanniversary/

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