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(第240回)黄金時代の輝きを取り戻したゲイリー・ニューマン

連載
久保憲司のロック千夜一夜
公開
2013/10/10   21:00
更新
2013/10/10   21:00
テキスト
文/久保憲司


ロック・フォトグラファーとして活躍、さらにロック・ジャーナリストとしての顔も持つ〈現場の人〉久保憲司氏が、ロック名盤を自身の体験と共に振り返るコラム。今回は、インダストリアル・メタルの先駆けであるゲイリー・ニューマンのニュー・アルバム『Splinter: Songs From A Broken Mind』について。そこにはふたたび自身と向き合うことで黄金時代の輝きを取り戻した彼がいて——。



自分はウルトラヴォックスというか、ジョン・フォックスのファンだったので、当時はゲイリー・ニューマンのことを「ジョン・フォックスのパクリ野郎」「ニセモノが」と思っていました。

あれです。エコー&ザ・バニーメンのファンがU2を許せないのといっしょです。なんて書いても、これも誰も知らないですよね。

簡単に書くと、初期のU2って、全部エコバニがやったことをマネしていたのです。もう古い話でどうでもいいですけどね。U2がエコバニの前座をしていた頃の話です。

ゲイリー・ニューマンの話に戻しますが、あの宇宙人のイメージというか、レプリカントのイメージは、完全にウルトラヴォックスのデビュー・アルバム『Ultravox!』に入っている名曲“I Want To Be A Machine”“My Sex”の二番煎じなんですよ。〈機械のようになりたい〉って、あのパンクの時代にジョン・ライドンが「すべて退屈だ」と言ったことと合わせると、最高のメッセージじゃないですか。ジョン・フォックスのアイデアもアンディ・ウォーホルのパクリなんですけどね。

そりゃ、“Are Friends Electric?”“Cars”は名曲です。後にヒップホップなどでサンプリングされまくったのも、ウルトラヴォックスよりもゲイリー・ニューマンのほうです。ナイン・インチ・ネイルズやマリリン・マンソンにリスペクトされているのも、ゲイリー・ニューマンです。でも、ジョン・フォックス在籍時のウルトラヴォックスのほうが、もっとエレクトロニックでカッコイイのです。

と、何十年も思ってきた僕ですが、実はこの頃、ゲイリー・ニューマンは良いのではないかと思ってます。特にナイン・インチ・ネイルズらにリスペクトされ、彼らのような、ダークな音楽を採り入れ出してきてからの作品が素晴らしい。

そして、ついに今回のニュー・アルバム『Splinter: Songs From A Broken Mind』で、ゲイリー・ニューマンは黄金時代に戻ったような輝きを取り戻しているのです。“Love Hurt Bleed”なんか本家ナイン・インチ・ネイルズの復活作『Hesitation Marks』より良いと書いたら怒られますかね。でも、良いのです。

あと、ほとんどの人がナイン・インチ・ネイルズに擦り寄っていると思っているかもしれないですけど、このゲイリー・ニューマンの変化は、彼が1993年にデペッシュ・モードの『Songs Of Faith And Devotion』を聴いて、かつて同じようにがんばっていた仲間が周りに左右されず、自身の内面をちゃんと反映させながら素晴らしい音楽を作っていることに感銘を受けたところから始まっているんです。そこから、もう一度自分と向き合って音楽を作っていこうとしたと。

パンク・バンド時代、スタジオにあったミニ・モーグをいじって新しい音楽の可能性を広げていったように、ゲイリー・ニューマンはデペッシュ・モードを聴いて、また自分の音楽を作り出していったのです。『Splinter: Songs From A Broken Mind』のPVとして、若いエンジニアにPCを操作してもらいながら自分の音楽をどんどん良い音楽に変えていっている映像が公開中ですが、ゲイリー・ニューマンとはそういう人だったのです。彼の音楽は、自分はレプリカント――自分には誰も友達がいないというふりをしながらミニ・モーグに触れたり、ジョン・フォックスやJG・バラードの小説に触発されたりして作られてきたものなのです。それがトップに立ってしまったがため、他者とのコミュニケートをまったくしなくなっていたのが、ここ最近までの不成功の原因だったのです。

ゲイリー・ニューマンは昔に戻ったのです。ルックスを見ても若々しいですよね。全然崩れていません。整形しているのかもしれませんが、でもレプリカントだからいいですよね、整形していても。

売れたら飛行機の免許を取ったりしていたから「ゲイリー・ニューマンは悪い奴かな」と思ったりしていたのですが、それは自分がエアフォースの学校に行っていたからなんですよね。しかも、お父さんが英国航空のバスの運転手で、そういうお父さんの背中を見ながら、「自分はお父さんが自慢できるような子供になってやろう」とパイロットをめざしたのかなと思うと泣けます。ゲイリー・ニューマンはジョン・フォックスのパクリ野郎って書きましたが、インタヴューで「ジョン・フォックスにいちばん影響を受けた」とちゃんと答えているのですね。とっても良い人のような気がします。