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祝!フォックス・サーチライト20周年!

カテゴリ
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公開
2013/10/15   10:00
ソース
intoxicate vol.106(2013年10月10日発行号)
テキスト
text : 吉川明利(映画案内人)


ヒッチコック_A

『サーチライト』、なんて魅惑的な語感なのでしょう。
 ハリウッド黄金時代のプレミア上映の映画館を照らす煌びやかなライトの数々が目に浮かびますね。そして20世紀フォックス映画社のオープニングを飾る立体ロゴマークを照らし出している、あの光の帯です。その光の名前を社名にしたのがフォックス・サーチライト・ピクチャーズ(以下サーチライト)なのです。1994年の設立以来、目の肥えた映画通を唸らす良質な作品を産み出し続け、毎年のオスカーレースの常連と言っても過言ではありません。他にもハリウッドメジャー各社に次ぐ存在として映画ファンに知られるスタジオとしては、ニューライン、サミット、ライオンズ・ゲートなどの名前が挙げられますが、サーチライトは他を圧倒していると言えます。

そもそもメジャー各社にも、かつては得意とする作品のジャンルがあり、それが会社のカラーとなっていたのですが、残念ながら今やそれも消えうせ、どこもヒット狙いのアメコミものと、その続編製作に勤しんでいるのが実情になってしまいました。むしろ、例えばライオンズ・ゲートなら〈ホラー&アクション〉といったように、インディペンデントのスタジオの方が独自のカラーを発揮しているわけです。まぁ、ニューラインのように親会社のワーナーと作風が被り、どっちのスタジオの製作なのかが分かりにくくなってしまう場合もあります。だからよけいにサーチライトの明確な製作スタンスが光るのです。本家20世紀フォックスと同じような大作を作っても仕方なかろうという判断でしょう、大きな製作費はかけられないものの、まずは監督が作りたいと思う企画を優先して、いわゆる『作家主義』を貫いているのです。

来年は記念すべき創立20周年に当たります。その20年の間に世に送り出した作品を見回せば、自ずとその〈作家主義〉と〈作風〉が見えてきます。『サイドウェイ』、『ファミリー・ツリー』のアレクサンダー・ペイン、『ダージリン急行』のウェス・アンダーソン、ナタリー・ポートマンのアカデミー賞主演女優賞受賞という大成功を収めた『ブラック・スワン』のダーレン・アロノフスキー、そして『127時間』、まもなく公開の新作『トランス』の監督であるダニー・ボイル、なんとも魅力的な面々ではありませんか。そして印象的な作品としては『ナポレオン・ダイナマイト』と、ようやく原題名で語られるようになった未公開青春映画『バス男』(カルト化した邦題NO1?)があります。この初期のヒット作にこそ、その後のサーチライトの作り出す青春映画のルーツが見られます。そう、等身大の若者を魅力的な主人公に描くのがサーチライトの『作風』であり、その代表作が『JUNO/ジュノ』であり、『(500)日のサマー』なのです。それらの映画からエレン・ペイジ、ジョセフ・ゴードン・レヴィット、ズーイー・デシャネルらが続々登場するなど、ハリウッド若手俳優の勢力図の書き換えにもサーチライトは大きく関わっていることも忘れてはなりません。そしてアビゲイル・ブレスリンを発掘し、個人的には一番のお気に入りなのが『リトル・ミス・サンシャイン』です。アメリカ人とアメリカ映画の永久不滅の題材である〈家族の映画〉の代表作ですね。このちょっと壊れた一家の大きな再生と小さな冒険には、大きな拍手を贈ってしまいます。そうした家族にしろ、若者にしろ、登場人物たちが観客の目の届く範囲にいる存在であるというのがサーチライト製作の映画の最大の魅力でしょう。

そういった意味で言えば待望のDVD発売となった『ヒッチコック』は異色作と分類できるかもしれません。実在した偉大な映画監督の製作の裏側と夫婦関係に悶々とする様を、映画愛に溢れながら見事に描き出したこの作品は、本来なら監督に縁のあるユニバーサルかパラマウントが手がけるべきで、製作の第一報を聞いたときも“なんでサーチライトが?”と思いましたよ。そして、その2社であれば実際の映像を使用して作ることが出来たでしょう。推測の域を出ませんが、おそらく権利関係で本物の『サイコ』の映像は使えなかったと思われます。しかし、映画監督ヒッチコックと、夫ヒッチコックを描く誘惑にかられた(『ブラック・スワン』で名を挙げた!)脚本家のジョン・マクラフリンとサーシャ・ガヴァシ監督の製作陣は、アンソニー・ホプキンスとヘレン・ミレンという名優ふたりを得て、本当に見ごたえのある夫婦映画&ハリウッド内幕もの(後のユニバーサルのトップに君臨し、監督スティーブン・スピルバーグを世に送り出すことになる、ルー・ワッサーマンの登場が嬉しい!)に仕立てたのです。映画会社の壁などをもろともせず、作りたいものを作る〈作家主義〉の面目躍如です。やはり異色じゃない、『ヒッチコック』は王道のサーチライト作品だったのだ!