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Cecile McLorin Salvant

公開
2013/08/20   12:30
ソース
intoxicate vol.105(2013年8月20日発行号)
テキスト
text:常盤武彦

数十年に一人の才能か!? とにかく今はセシルだ!

昨年9月のデトロイト・ジャズ・フェスティヴァル、3日目のメイン・ステージ、夕日に染まりながら一人の小柄な女性シンガーが、ステージに立った。翌年にマック・アヴェニューからデビュー・アルバムのリリースを控えた23歳のセシル・マクロリン・サルヴァントが、そのミステリアスなヴェールを脱ぎ去った瞬間だ。圧倒的な歌唱力が、大観衆を飲み込む。1986年のモントレー・ジャズ・フェスティヴァルで聴いた、メジャー・デビュー直前のダイアン・リーヴスに出逢ったとき以来の衝撃が、駆け抜けた。

セシル・マクロリン・サルヴァントは、ヴォーカリストにフォーカスした2010年のセロニアス・モンク・インターナショナル・ジャズ・コンペティションで、パティー・オースティン、ディー・ディー・ブリッジウォーターら審査員達の圧倒的な支持をえて優勝し、アメリカのジャズ界に大きな衝撃を与え、その特異な才能と経歴は知られるところとなった。ハイチ人の父と、フランス人の母にマイアミに生まれ、幼い頃から、クラッシック、ジャズ、ブルースに親しんで育った。18歳でフランス、エクス=アン=プロヴァンスに留学し、恩師のジャン=フランシス・ボネルと共演。フランスでプロフェッショナル・キャリアを踏み出し、モンク・コンペティションへの凱旋を成し遂げる。弱冠23歳といえども、その強烈な個性と、高い音楽性はすでに確立されており、本アルバムから聴き取ることができる。アルバム冒頭のベッシー・スミスの愛唱歌や、オールド・ブルースのM3、19世紀のバラードのM9、オールド・スタンダードのM7、10、11などの幅広い選曲、ラヴェルのプレリュードを題材にしたM6が、大胆なアレンジと、その卓越した歌唱力で見事に統合されている。マクロリン・サルヴァントの第一言語であるフランス語で歌ったM5や、タイトル曲のM4、エンディングを飾るM10のオリジナルも、オールド・ソングにひけを取らない。今年、同じくマック・アヴェニューからデビューした、ジュリアード音楽院出身の俊英で、ツアーも随行しているアーロン・ディル(P)とのコラボレーションが素晴らしく、ニューオーリンズ・ネイティヴで、オールド・ジャズ&ブルースのリズムにも精通するハーリン・ライリー(ds)が絶妙のサポートで深いグルーヴ感を加味している。

この若さにして、サラ・ヴォーン、エラ・フィッツジェラルド、ビリー・ホリディの三大ジャズ・ヴォーカリストに比肩するとすら言われる、数十年に一人の逸材。セシル・マクロリン・サルヴァントが今、大きな一歩を踏み出した。

写真:常盤武彦



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