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Kronos Quartet/Bryce Dessner『Aheym』

カテゴリ
o-cha-no-ma LONG REVIEW
公開
2014/01/22   10:00
ソース
intoxicate vol.107(2013年12月10日発行号)
テキスト
text : 久保正樹


ジミ・ヘンから辿り着いたクロノスの時

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鋭い音楽選択眼で時代の空気を映し、野心と気品あふれる態度と身のこなしで音楽のあちこちを飛び越える弦楽四重奏団クロノス・クァルテット。彼らの新作がアンタイ・レコードより届けられた。

本作の注目は何といってもロックバンド、ザ・ナショナルのギタリストであるブライス・デスナーとの共作という点だろう。これまでにも、スティーヴ・ライヒ、テリー・ライリー、フィリップ・グラス、アストル・ピアソラ、アレン・ギンズバーグ、はたまたクリスチャン・マークレイ、太田裕美など多彩で豪華なアーティストとの共演を果たしてきたクロノス。今回はロックギタリストがお相手ということで、少々訝しがる方もいるかも知れないが、何てことはない。ブライスのルーツにはクラシックがあり、ミニマルがあり、ライヒやグラスとのコラボ経験があり、ロックを媒体としつつもクロノス同様に「異種交配が産み出す調和」に長けた男なのだから。

そんな彼が作曲した4つの楽曲からなる本作。出だしからシャープな四重奏で畳み掛けるやいなや、弦をはじき、引っ掻くノイズが現れる。そこに艶のある旋律が浮かび上がり叙情が顔を覗かせる。うっとり。そして金属的な不協和音が耳をかすめたかと思えば、たちまちそれを一掃する旋律の応酬。応酬。応酬。ユダヤ語で「家路」を意味する1曲目《Aheym》の素晴らしさがこの作品のすべてを物語る。圧巻である。また、シンガーソングライターのスフィアン・スティーヴンスが参加した《Tenebre》では、弦と声が織り成すミニマル運動がじわじわと喧騒を誘い、ブルックリン・ユース・コーラス参加のドラマチックな最終曲《Tour Eiffel》へと導く。透明感あふれるアカペラから始まり、ギター、ピアノ、パーカッションが複雑に絡みもつれ合い壮大なクライマックスを迎えるさまは、単なる美ではなく、異様なまでの美。往年のファンはもちろん、昨今のポスト・クラシカルやドローン、アンビエント派にも届きそうな懐の広い冒険、そしてポップソングの真髄をありありと聴かせてくれる。



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