私の「2000年代SOUL名盤」(新宿店)
高校に入学した頃、駅前のCDショップで初めて手にした洋楽CDがGreen DayとSlipknot、そして今回選盤したEminemでした。私にとってこの3枚は言わば3種の神器的なもので、青春を共にしたゼロ年代は特に思い入れが強いです。早いものでリリースから10~20年近くが経つわけですが、こうして改めて聴いてみても当時の衝撃を鮮明に思い出すことができる稀有な作品ばかりです。特に上位に挙げた作品は、多様化するシーンにおけるスタンダード、今後これは超えられないのではと感じてしまうのは思い出補正でしょうか。どの世代にも言えることかもしれませんが、良き時代の音楽と共にできたことに改めて感謝致します。
Selected by
新宿店/塚元
名古屋で3店舗経験し、現在新宿店では9Fの洋楽フロアを担当しております。雑食型洋楽リスナーです。
D'Angelo『VOODOO(SHM-CD)』
まさに比類なきとはこのこと。復讐という名の正義を楽器に持ち替えたアヴェンジャーズたちはかつての聖地に集い、ひとたび再生ボタンを押せばあの地下室にタイムトリップできる。そこではクエストラブがタイトなビートを刻み、追随するピノのベースは時に艶やか。根底に流れるのはJディラの感覚、勿論それら全てを完全に支配するのはディアンジェロ本人で、彼の生み出すグルーヴは誰も真似できない。そう、それは例え自分自身であっても。脈々と続くブラック・ミュージックの集大成であり一つの完成形、この作品が提示したものは聴き手が本能的に欲するビートやグルーヴ。また今日も陶酔の世界へと私を誘う。
Kanye West『Late Registration』
ソロとしてデビュー盤『ザ・カレッジ・ドロップアウト』が予想を遥かに上回る成功を収め、弥が上にも期待が高まったセカンド・アルバム。カーティスの大ネタ「ムーヴ・オン・アップ」をアー、アア♪とそのまま歌っちゃう「タッチ・ザ・スカイ」を聴いて、ノンプレッシャーなカニエに恐れ戦いてしまった。早回しを逆手にとった「ドライヴ・スロウ」やこれまた大ネタ使いで前年のジェイミーの熱演を「ゴールドディガー」で再現して魅せたと思えば、ロック畑のジョン・ブライオンを招いてアダム・レヴィーンを迎えた「ハード・エム・セイ」ではナタリー・コールの名曲を効果的に使用してジャンルの壁を簡単に越えてみせた。時代は彼の手の中にあったのだ。
Madvillain『Madvillainy』
楽曲制作におけるプロセスとそこに対する感性が余りにも人と違いすぎるマッドリブと、数々のオルターエゴでアングラ界を魅了し続けてきた悪役ヒーローMFドゥームの強烈タッグ。圧倒的コラージュセンスの数々が炸裂する、これ歌い手のことなんて全く考えてないでしょ的なトラックメイクがひしめくなか、経験豊富なリリシスト、ドゥームの手にかかればアラ不思議、とんでもケミストリーを起こしてしまった。ひとたびディグりだしたら軽く夜を明かすサンプリングネタは150以上、日本人にも馴染み深いあの格ゲーからも大胆に拝借。中でもジェントル・ジャイアントの「ファニー・ウェイズ」をサンプリングした「ストレンジ・ウェイズ」は至高。
Common『Like Water For Chocolate』
スティーヴィー・ワンダー『心の詞』リリースの数日後に生を受けたコモンは何かに引き寄せられるかのようにニューヨークに移り、クエストラブの導きで聖地・エレクトリック・レディにてレコーディングを開始する。96年に出会ったコモンとJディラは恐らく20世紀最後にして最大のケミストリーをこの作品の中で示したといえるだろう。内省的かつ詩的でシニカルなリリック、知性溢れるライミング、メロウかつスモーキーな漆黒ビート、レイドバックなサウンドのなかに確かに宿る情熱...2人のキャリアに燦然と輝く「ザ・ライト」をはじめ、「ザ・シックス・センス」や「ゲットー・ヘヴン・パート・ツー」等々を支える錚々たる面々そのひとつひとつが不可欠なピースを担っている。
Alicia Keys『ソングス・イン・A・マイナー <期間生産限定盤>(+3)』
10代後半に作り上げたアリシア・キーズの衝撃デビュー作。“ピアノと私”と題してクラシカルな素養を魅せたと思えば、「ブルックリン・ズー」を大胆にフューチャーしてヒップ・ホップ勢もまとめて鷲掴み、おまけに「1999」のB面から極上のバラードをセレクトするセンスにも脱帽。極めつけはブルージーなキラー「フォーリン」で文字通り恋に落ちてしまった。加えて、アリシアが14歳の頃に作曲したキャリア初期の2曲「ザ・ライフ」「バタフライズ」なんかは更に破壊力が凄まじい。後の彼女の代名詞といえるアリシア=アルペジオはブライアン・マックナイトとの「グッバイ」で既に形に。19歳でこれ歌い上げちゃうなんてとんでも才女ですわ。
Eminem『The Marshall Mathers LP』
前作『ザ・スリム・シェイディ・LP』で誕生した強烈なオルター・エゴは、自身の本名を冠した今作『ザ・マーシャル・マザーズ・LP』でも同居し、実像と虚像が判別つかないまま語られるその言葉ひとつひとつが生々しく刺激的で、作品をよりダークに印象付けている。その卓越したラップスキルはもちろん、「スタン」や「キム」に代表される詞の世界と迫真の歌唱は、彼の特異なセンスとストーリーテリングにおける非凡な才能を示した今作のハイライトといえるだろう。実の母親や元妻に対し攻撃的な姿勢をみせる一方で、人間的な弱さを時折みせるエミネム自身の魅力が詰まった作品といえ、その輝きは時代を超える名盤に相応しい。
Amy Winehouse『バック・トゥ・ブラック(+BT)』
アリシアと同じく10代最後の歌声を収めたデビュー作『フランク』はサラーム・レミによってジャズ・シンガー、エイミーの飾り気のない才能を開花させただけでなく、R&Bとヒップ・ホップを引合わせ彼女もまたそれに十二分に応えた。その最たるは「イン・マイ・ベッド」だろう。そして更なるマーク・ロンソンとの運命的な出会いの後に『バック・トゥ・ブラック』が完成する。2人が作り出したコンテンポラリーR&B、幾重にも重ねた屈強なビートとサウンドに生きる場所を見つけたエイミーの歌声はいつ聴いても鳥肌ものだ。ブリティッシュ・ソウル・インヴェイジョンの先駆的な観点でも彼女の功績は余りにも大きすぎる。
The Streets『Grand Don't Come For Free, A (EU/LP)』
アメリカで全盛を迎えたヒップ・ホップがチャートを席巻している最中、イギリスでは一人の青年がレンタルDVDを返しに行ったがDVDの中身を忘れて返すことができず、ATMでお金を下ろそう思ったが散々並んだ挙句ATMからお金が無くなってしまい下ろせなかった。そんな“上手くいくはずだった”一幕が描かれる1曲目はとにかく衝撃的だった。1,000ポンドを取り戻す物語をユーモアたっぷりに描いたマイク・スキナーは飄々と全英1位を獲得。ライムよりもリリック最優先、ちょいユルなフロウに抜群のトラックメイク、聴き終わるころには映画にも似た充足感で満たされる。後のUKインディーロック復権の礎ともなった彼の功績も決して忘れてはならない。
John Legend『Get Lifted(+BT)』
カニエ・ウェストに見出され、と言っても既に地に足ついたキャリアをスタートさせていたジョン・レジェンドのデビュー盤はグッド・ミュージックからのレーベル第一弾。この後長きにわたるこの2人の関係性は黄金タッグに異論はないが、今思えばジョン自身のある種の順応性と非凡なバランス感覚を示した作品と位置づけられるのではないか。現にこの作品のハイライトである「オーディナリー・ピープル」は自らプロデュースしたウィル・アイ・アムとの共作で、この1曲だけで十分彼の才能を感じ取れる。そういった観点からも、アリシアの『ダイアリー・オブ・アリシア・キーズ』に重なる部分は多く、互いに来たる次代の一翼を担うという意味でも、この作品は外せれない。
Jay-Z『The Black Album』
引退宣言がプロレスラー並みにあてにならないと言ったら失礼ですが、現役を退く意をもって制作された通算8枚目。そんな気概あってか、自らが認める者だけをプロデューサーとして招き入れ、客演なしでやり切った今作はアメリカだけで300万枚以上のセールスを叩きだす。約15年間の活動で頂点を極めたキングが“言いたいことは全部言った”と振り返る姿はまさに漢の中の漢、キャリア集大成という意味では完璧なアルバムだった。また、今作リリース後の“アンコール”、リンキン・パークとのコラボでマッシュアップ文化は加熱。デンジャー・マウスの『ザ・グレイ・アルバム』を筆頭に、マッシュアップにおけるクラシックアルバムとしても広く認知されるようになった。
タグ : タワレコ名盤セレクション
掲載: 2020年05月25日 00:00