ルイ・マル監督『死刑台のエレベーター』初ブルーレイ化
映画史において最重要な作品を、充実した仕様の形で、初ブルーレイ化として発売していくことをコンセプトにして<シネフィル・イマジカ・レーベル>が立ち上がりました。注目の第1弾は、フォルカー・シュレンドルフ監督作『ブリキの太鼓』と、ルイ・マル監督作『死刑台のエレベーター』の2作品。
『死刑台のエレベーター』(原題 ASCENSEUR POUR L’ECHAFAUD)1957年フランス映画。本作の他に「その子を殺すな」「名も知れぬ牛の血」といった作品も邦訳があるノエル・カレフのミステリーを原作に、助監督経験などを経て25歳で劇監督デビューを飾った天才、ルイ・マルの、そのデビュー作が、現在も犯罪映画、ミステリー映画、悪女映画、そしてジャズ映画の金字塔としてゆるがない『死刑台のエレベーター』である。 (その前にジャン・クストーと共作した海洋ドキュメント『沈黙の世界』で監督クレジットがあるため、監督デビュー作ではなく、初・劇映画監督作なのである)
社長夫人と深い仲になっていた若き社員。彼は、彼女の夫である社長を殺害し、自殺と見せかける工作をほどこし、現場から去るが、忘れ物に気づき、戻るために乗ったエレベーターは、社員が帰ったものと思った守衛が電源を止めたため、停止してしまい、男はエレベーターに閉じ込められる。そして、男が乗りつけたクルマは、奔放な若いカップルが盗み乗りしていき・・・ある完全犯罪の崩壊から、さまざまな人間ドラマが交錯して展開していく、複雑に構成されたエンタテインメント。
ジャック・ベッケルに発見され、1957年に本作の主演とジュールズ・ダッシン『宿命』で注目され、のちに『太陽がいっぱい』(ルネ・クレマン監督)『鬼火』(ルイ・マル監督)など、重要作に欠かせない二枚目スターとして活躍するモーリス・ロネ(『死刑台のエレベーター』当時29~30歳)、そして、『現金に手を出すな』(ジャック・ベッケル監督)などの作品でキュートな魅力を見せながらも、『死刑台のエレベーター』そしてルイ・マルとの出会い以降、ヌーヴェル・ヴァーグを代表する女優へと輝かせていくジャンヌ・モロー。彼らが見せる、スリリングになりつつあった頃のフランス映画の役者の魅力。
そして、アンリ・ドカエ(1915年生まれ)による、あまりにも美しいモノクロの映像。それまで『恐るべき子供たち』他のジャン=ピエール・メルヴィル監督作で携わっていたが、『死刑台のエレベーター』以降、ヌーヴェル・ヴァーグの代表作で次々と美しい映像を残した。『大人が判ってくれない』(フランソワ・トリュフォー監督)も『太陽がいっぱい』も『シベールの日曜日』(セルジュ・ブールギニョン)も、彼の撮影である。(ちなみにジャン=リュック・ゴダール監督の『勝手にしやがれ』、トリュフォー『突然炎のこどく』は撮影ラウール・クタール。クタールは、ゴダールやトリュフォー作品を多く撮影した)
そして、『死刑台のエレベーター』の話題で欠くことができないのが、マイルス・デイヴィスによる映画音楽。マイルスのファンであったルイ・マルは、とんでもないことを思いつく。当時、演奏旅行でパリに滞在して、現地のミュージシャンたちとコンサートを行っていたマイルスを呼んで、サントラを録音してもらおうというアイデアである。その夢は実現し、衝動的でありながら緻密に計算されたマイルスのジャズが、完璧な画面をさらにクールに引き締めることになった。
そして、この若く才気あふれた監督による犯罪映画の傑作のサントラにマイルス・デイヴィスのジャズを使用した衝撃。これは、今では「シネ・ジャズ」なる、まるでジャンルのように語られる用語化までされた、ひとつの大きな潮流を作ることになるのだった・・
後の、さまざまに広がっていった、映画のクールな要素。その多くが、この映画を発端としている、という凄い傑作であります。
掲載: 2012年10月16日 18:25