エフェクターの魔術師、ダスティン・ウォング通算5作目のソロ作が完成
彼の多数のエフェクターを足元にならべ、ディレイ、ループ等様々なエフェクトを駆使し、ミニマルでカラフルなレイヤーを描き出していく万華鏡のごときギター・パフォーマンスは各所で話題となっており、近年の2作はそのライヴと同じ形式の一発録りであったが、本作では異なるアプローチを見せている。全てをパーツ録りして緻密にミックスがされており、どちらかというとローファイな印象だったこれまでと比べて、ぐっとハイファイな音像へと進化を果たした。
近年のライヴでは低音を倍増させているが、今回の作品中でも低音をぐっと効かせることでサウンドを拡張し、レイヤーのニュアンスにふくらみを持たせ、サウンドのスケールアップに成功している。もちろんレイヤードされ転調していくダスティン節ではあるが、ライヴと制作を通じて練り上げられ進化し続けるリズム感、メロディ・センス、そして展開・構築力にはさらなる磨きがかかり、プログレッシヴでリズミックな風合いも強まって、これまでの延長線上を超え、さらなる高みに達した印象だ。
オープニングを飾る「The Big She」のヒリヒリとしたスリリングなギターと幻惑的なヴォイス、地を這うようなグルーヴから新機軸を感じさせ、計14曲の中で様々な音色やフレーズを楽曲の中で交錯。目まぐるしく展開させて行く。ノイジーな前半から煌くフレーズを重ねていく、教会を意識したという疾走チューン「Liberal Christian Youth Ministry」、後半にヴォーカルを溶け込ませた「Speeding Feathers Staring」、日本の風情を感じさせる「Japan」など、様々な曲調が詰め込まれたヴァラエティに富んだ内容。
そして本編ラストの「Tall Call Cold Sun」には共作もリリースした嶺川貴子のヴォーカルがフィーチャーされている。揺らぐサウンドの中で嶺川の囁くようなヴォーカルが浮遊し、緩やかに高みへと誘っていくラストの緩やかなエモーションに引き込まれる。
日本盤のボーナス・トラックには7分を超える「Jamaican Sunset」が収録。夕暮れを思わせる浮遊感をまとったリリカルなフレーズを基軸に細やかなレイヤーが積み上げられて行き、終盤にはノイジーでドラマティックなギターが介入する秀逸なトラック。より幅広いリスナーにアプローチすることは間違いない傑作の誕生だ。
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掲載: 2013年08月15日 20:57