ジャーマン・シーンを牽引するマーカス・アーチャー=レーヨンのデビュー・アルバム
ドイツのミュンヘンに拠点を置き、ノーツイスト、ラリ・プナ、タイド・ティクルド・トリオの中心メンバーとして現在のジャーマン・シーンを牽引するマーカス・アーチャー。
本作はそんなマーカスのソロ・プロジェクト名義、レーヨンのデビュー・アルバム。本プロジェクトはマーカス自らのプライベート・スタジオをメインに、収集したインストゥルメンツ(ザイロフォンやハーモニューム、グロッケン等)とサンプリング用の壮大なレコード・コレクション、コンソールとコンピューターを駆使したプライベート・ミュージックを制作する、ソロ・
プロジェクト。これまでに限定7インチを1枚、10インチを2006年に1枚リリースしたのみだったが、ファンからの要望を受けてフル・アルバムとして今回リリースの運びとなった。
本作はふたつのプロジェクトで構成されている。ひとつはイタリア映画『N-Capace』に提供した楽曲たち。映画は女優兼映画監督として活躍するEleonora Dankoによるアート・ムービーで、現地ではフェリーニやブニュエル、ベケットなどを引き合いに評価された実験的な作品。楽曲は70年代のフレンチ、イタリアンB 級ムービーのサンプリングと、アコースティック楽器(マレット、ハーモニューム、グロッケン、ギター、ピアノ)をメインに制作され、収録バージョンは映画で使われたトラックとはミックスが異なっている。
そしてもうひとつは音楽ファンにはプロモーション・ビデオの先駆者として知られるマイケル・H・シャンバーグが監督した、中東レバノンを舞台にしたドキュメンタリー・フィルムのサントラ。マイケルは80年代のファクトリー・レコーズを舞台に、ニュー・オーダーの出世作である「Blue Monday」や「True Faith」などのPV を手掛けたことで知られる。その後はトーキング・ヘッズやR.E.M.、パティ・スミスなどのビデオを制作したが、90 年以降から映画製作に本格的に参入。本作は中東レバノンを舞台にしたドキュメンタリーのサントラで、壮大なプロジェクトの第1 章部分に当たる(ただしマイケルは2014年10 月に急逝したためプロジェクト自体は未完に終わった)。提供された楽曲はハーモニュームと、監督自らレバノンで購入してマーカスに提供されたという45枚の現地のレコードの断片で構成され、チェロやゲスト・ボーカル(元The Concretes、現Taken By Trees のVictoria Bergman)も参加している。
そして日本盤のみのボーナストラックである「close」は2013 年にレーヨンが一度だけ生演奏した貴重なトラックで、マリンバやヴィオラ、トランペット、トロンボーン、ハーモニュームといった楽器を中心に、マーカスを筆頭に6 名の演者で演奏されている。ファイン・アートを中心としたフェスティバルでプレイしたもので、レーヨン名義での生演奏は現在までこれが最初で最後となっている。
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掲載: 2015年06月05日 18:09