ニック・ケイヴの世界に迫る音楽ドキュメンタリーが映像作品化
メタリカ、アークティック・モンキーズ、レディオヘッドなど、多くのミュージシャンが影響を受けたと公言する、パンク以降のロック界が生んだもっとも多彩な才能を持った危険な存在がニック・ケイヴだ。
オーストラリアに生まれ、ザ・ボーイズ・ネクスト・ドアから、バースデイ・パーティを経てソロとなり、激しくテンションの高い伝説的なパフォーマンスでカルト的な人気を確立。多くのアルバムをリリースし、ミュージシャンとして高く評価されているが、同時に「キング・インク」を始めとした詩集や小説「神の御使い」を発表し作家としての才能も開花させていく。映画への参加や楽曲提供も多く、ヴィム・ヴェンダース監督の『ベルリン・天使の詩』(87)、ブラッド・ピッドの出世作『ジョニー・スエード』(91)では俳優として、ジョン・ヒルコート監督の『欲望のバージニア』(13)では脚本と音楽を担当し、カンヌ国際映画祭にコンペティション部門で上映、ジョージア映画批評家協会賞で主題歌賞を獲得した。
本作はそんな彼の生誕20,000日目を見つめるという形式を取り、心理 学者ダイアン・リーダーによるインタヴューを万華鏡のように自在に織り交ぜ、ニックがどのような人生を送り、何を考え、その唯一無二の発想の裏にどんな秘密が隠されているのかを明らかにしていく。
劇中には、彼の人生に大きな影響を与えた人々が登場する。かつてデュエット曲が大ヒットを遂げ、ニックの名を世に知らしめるきっかけを作った歌姫、カイリー・ミノーグ。そして、バンドの創設メンバーであったノイバウテンのブリクサ・バーゲルトなど。彼らは映画という“フィクション”の中で、積年の思いをぶつけ合い“現実”の会話を交わしていく。そんなドキュメンタリーとフィクションが交錯する斬新な演出方法も見所の一つだ。そして、ファンならずとも胸を打たれるのはクライマックスに訪れる、圧巻のライヴシーン。激しく、情熱的なそのパフォーマンスは、ニックがたどってきた人生を物語る過去のアーカイヴ映像と巧みにコラージュされ、観る者をさらに感動的な体験へと誘っていく。本作は彼の脳内を覗くような興奮と刺激に満ちたスリリングな傑作だ。
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掲載: 2015年06月24日 12:53