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〈SARAVAH〉初期作品を彷彿とさせる本年度最重要作のひとつ、レオノール・ブーランジェ新作

掲載: 2016年10月04日 16:51

Leonore Boulanger

 

ビョーク、フアナ・モリーナ、ジョアンナ・ニューサム、リジー・メルシエ・デクルー、メレット・ベッカー、コリーン アクサク・マブール、スラップ・ハッピー、アルベール・マルクールといった先達たちの作品群同様に、真にヴィジョナリーでアンビシャス、プリミティヴでイマジナティヴ、本年度最重要作の一枚に選ばれるであろう恐るべきアルバムの登場です。

創意工夫、創作で遊ぶ歓びに溢れた手作感覚満載な録音芸術。様々な音楽要素を解体し、組み直したかのような作曲、編曲の妙は実に新鮮なものでほかにあまり類を見ない、新しいものとして響くことでしょう。

アフリカの伝統音楽~映像作家マヤ・デレンの作品におけるTeiji Ito の音楽、ハリー・パーチ、メレディス・モンク、ジョージ・クラムといった音楽家たちへの深い関心から学んだことも、このアルバムには色濃く反映されています。

ピエール・バルーが1965年に創設したレーベル「SARAVAH」その初期リリース作品の数々を思い起こさせると、近年ここ日本でも注目を集めつつあるフランスのレーベル「LE SAULE / ル・ソール」。2014年にリリースされたAntoine Loyer (アントワーヌ・ロワイエ)のセカンド・アルバム『Chant de Recrutement』が発見され、注目を集めました。「LE SAULE / ル・ソール」はこの場から作品をリリースしているアーティストたちによる協同体。リリース作品を開くとクレジットなどからもアーティスト間の協調関係がうかがえます。

本作の中心に立つ、レオノール・ブーランジェはパリで演劇、実験的な即興音楽、ペルシャ音楽を学んでいたといいます。フランス人フィルムメイカー、ヴィンセント・ムーンを中心とした La Blogothèque Take Away Shows の一連の映像作品や、よりディープなCollection Petites Planètes シリーズで親しんでいた方も多いことでしょう。

このアルバムは彼女にとって三作目となるアルバムで驚くべき飛躍を遂げています。パリとベルリンを行き来し、鍛冶職人の工場で録音されたというこのアルバムの音像は、コンピューターを基点とする過剰なポストプロダクションの沼に陥っていない、無理のない自然さ、しなやかさ、生々しさに溢れています。その音楽は多様な要素を調合した複合的なものでありつつ、大変素朴で摩訶不思議ですらあります。

アルバムを彩るアートワークは約四十年前にエストニアの画家、Vello Vinn によって描かれたもの。この画が想起させる奇妙なフェアリーテール、夏の日と冬の夜を行ったり来たりする、蜃気楼の先に見える幻影を音で映写するような、マジックリアリズム感が拡がります。

アルバムのタイトルとなっているFEIGENとはドイツ語で無花果のこと。8曲目の冒頭僅か10秒挿入されているフィールドレコーディング、ベルリンにある市場の喧噪の中に響く、トルコ人のイチジク売りの威勢の良い音楽のような掛け声からでしょうか。草花が育つように日々変化していった音楽の断片の数々が見事に一枚のアルバムにまとめあげられています。