アート・リンゼイ、13年振りの新作&総覧本が登場
国境もジャンルも世代も超越した唯一無二の存在感で音楽シーンを飄々とさすらいながら、世界中に熱狂的なファンを生んできた真の奇才音楽家、アート・リンゼイが約13年振りとなる新作アルバムをリリースする。これまでコンスタントにアルバムを発表し続けてきたアートだけに、この13年はファンにとってあまりに長く、まさに待望感が沸点に達した中でのリリースだ。
ブラジリアン・パーカッションのビートと重厚なオルガン~キーボードの邂逅は斬新ながら、本作でそれ以上に印象的なのは、再び攻撃性を取り戻した旺盛な実験精神だ。これまで培われた究極の“コスモポリタン音楽”としての高度な洗練はそのままに、前作『Salt』にかけて徐々にポップな色合いを強めていたそのサウンドは、13年の時を経て再び鋭利に研ぎ澄まされ、単にノイズギターの含有率が高まったというだけではないヒリついた肌感覚が戻ってきた。メロウな音空間を切り裂くギターや無邪気に暴れるエレクトロニクスの痛快さ。そこに響くアートの歌声は、背筋を伝う刃物のように危険なエロティシズムを放つ。一転してマリーザ・モンチと共作した「Pele de Perto」の美しさも特筆もの。“攻め”と“ポップ”のバランスという点では本作こそキャリア最高であり、13年待った甲斐のある大傑作である。
「別冊ele-king」第5号は、アート・リンゼイの現在をあますとろこなく語ったロングインタヴューを皮切りに、その表現の核をかたちづくったアートや文学、現在の活動拠点を置くリオでのサンバ・プロジェクトなどを詳述。日本はおろか世界にも類をみない、アート・リンゼイを総覧する試みとなる。ブラジル音楽の官能とノーウェイヴの雑音、アヴァン・ポップの華麗なる試み、彼の偉大なる全貌をお見せします!
掲載: 2016年11月17日 10:08