カリフォルニアのドリーミーなローファイ・デュオ=Girlpool(ガールプール)、最新作『WHAT CHAOS IS IMAGINARY』
カリフォルニア出身のドリーミーなローファイ・デュオ、ガールプール。ハーモニー・ティヴィダッドとクレオ・タッカーからなるこの二人組は、ミニマルなサウンドと、生々しい感情がヒリヒリと伝わってくるようなエモーショナルなハーモニーでRolling StoneやPitchfork、NPRなどから注目を集めている。その二人にとって2017年のANTI-移籍第一弾アルバム『POWERPLANT』以来となる新作が完成した。
デビュー・アルバムをリリースした当時、まだ高校を卒業したばかりだったというハーモニーとクレオ。二人がGIRLPOOLとして発表している音楽は、常に進化と成長を続けており、そのサウンドやスタイルが、現代音楽シーンのどこに当てはまるのかを特定することは流動的が故に難しい。しかしそれだからこそ、デュオのサウンドは、リスナーの心を捉えて離さないのだ。GIRLPOOLほど、メンバーそれぞれの成長が音楽性にシンクロしている例はあまりないかも知れない。これまでリリースされたアルバムはそれぞれ、まるでその時、その時の二人を捉えたスナップショットのように表情豊かである。今回発売となる最新作『WHAT CHAOS IS IMAGINARY』を聴けば、二人が2014年のデビューから、どれほどの変化を経験したのかが分かるだろう。そしてその変化は決してポジティヴなものだけではなかった。「メンタルな問題をあれこれ抱えていたの」アルバムのタイトル・トラック“WHAT CHAOS IS IMAGINARY”について、GIRLPOOLのハーモニー・ティヴィダッドは語る。「あの曲は、現実から切り離されたところから生まれたの。この世界は複雑すぎる。魔法を信じることも、それから存在するものを信じることも、難しい」 最初に魔法、その次に存在するものを上げているところに、ハーモニーの内面が伺える。
アルバムの3曲目“Where You Sink”は、二人がそれぞれ、アメリカ西海岸の別の州に分かれて住んでいた時に作った曲。この時期は二人にとっても、とても大きな変化を経験していた頃でもあり、これまでに無いぐらいそれぞれが自身のソロ作品に集中していた。「それまでは、最初から一緒に4本の手で作っていた」自分たちの初期作品の制作過程について、そうクレオは説明する。「私たちの曲は、今とは違う形で織合わさっていた。それぞれの経験を持ちよって、一緒に曲を作り、それを多面的だと考えていた」
それぞれのソロ活動が、GIRLPOOLのサウンドに新たな息吹を吹き込んだ。今作で二人は、このより自主的でより流動的な制作過程を心地よく感じるようになった。ハーモニーもクレオもプロダクションとアレンジのどちらも手掛けるが、これまでの最初から最後まで二人一緒に手を取ってやっていくプロセスではなく、一緒にやるべきだと二人が感じた時に落ち合うというものへと変わっていった。二人が「このアルバムを作るのに、ものすごい長い時間がかかった。変革の時期を捉えた写真のようなアルバムだと思う」と語るように、今作『WHAT CHAOS IS IMAGINARY』は、これまでのどのGIRLPOOLのサウンドとも異なっている。今作ではじめて、ハーモニーとクレオのどちらがどの曲を作ったのかが分かるようになっている。それだけではない。サウンドスケープの部分においても、これまでのミニマルな編成から飛び出し、ドラム・マシーンやシンセサイザーを使用したり、8人編成のストリングスを取り入れている。またGIRLPOOLサウンドの魅力の一つでもあった繊細なハーモニーにも、新たな音域と幾分かの力強さが加わっている。これにはクレオがトランスジェンダーとしてカミングアウトしたことも影響している。
「GIRLPOOLを始めた時、ミニマルな編成で生の感情を出していくスタイルで演奏するのは爽快だった。自分たちが変わっていくについれ、自分たちから生まれる作品も変わっていくと思う」 そう語る二人の『WHAT CHAOS IS IMAGINARY』に続く次作が、どんなものになるのか、誰も想像がつかないだろう。GIRLPOOLの成長は、確実に進み続けているからだ。このアルバムがリリースされる頃には、きっと二人はここよりももっと遠いところへ辿り着いているのかもしれない。