WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.22
エラ・フィッツジェラルド『マック・ザ・ナイフ~エラ・イン・ベルリン』(1960)
エラ・フィッツジェラルド(vo)
ポール・スミス(p)
ジム・ホール(g)
ウィルフレッド・ミドルブルックス(b)
ガス・ジョンソン(ds)
1960年2月13日 ベルリンにてライヴ録音
曲目:
1.風と共に去りぬ
2.ミスティ
3.ザ・レディ・イズ・ア・トランプ
4.私の彼氏
5.サマータイム
6.トゥー・ダーン・ホット
7.ローレライ
8.マック・ザ・ナイフ
9.ハウ・ハイ・ザ・ムーン
【アルバム紹介】
1.エラ・フィッツジェラルドの名パフォーマンスを記録した名作
2.ライヴならでは魅力満載(アドリブ、スキャット、モノマネが神業級)
3.オリジナル盤は9曲、コンプリート盤は4曲追加13曲収録
今回紹介のアルバムも前作の“スピーク・ロウ”に続き、ドイツの作曲家クルト・ワイルつながりになりますが、その代表曲である“マック・ザ・ナイフ”のヴォーカル名演としてジャズ史に名を残している1枚がこのエラ・フィッツジェラルドのライヴ・アルバムです。
ジャズ史上ではビリー・ホリディ、サラ・ヴォーンと並び、3大女性ジャズ・シンガーの一人として有名なエラは、“ジャズ界のファースト・レディ”こと、“The First Lady of Song”のニックネームでリスペクトされた存在でした。その歌唱力は抜群で、ヴァーヴに残された作曲家別のテーマで制作された“ソングブック”シリーズは偉業の一つとして名高いものです。
そのディスコグラフィ中、ライヴ盤として傑作と称されているのが本作で、1960年、ベルリンで1万人以上の聴衆の中で行われた一大パフォーマンスであり、アルバムはグラミーを受賞、そして1999年にはグラミーの殿堂入りを果たしている名盤となります。
“風と共に去りぬ”“ミスティ”“サマータイム”といったスタンダードの名曲を表情豊かに歌い上げていて、ところどころで、笑いをとりながら、聴衆をぐいぐい引き込んでいく様が伝わってきます。聴きどころはラストの2曲“マック・ザ・ナイフ”、“ハウ・ハイ・ザ・ムーン”で聴かせる圧巻の歌唱です。
前者は一説によると、エラはドイツの聴衆に向けて、同国の作曲家であるクルト・ワイルのこの曲を歌い、しかも思いつきだったため、曲も歌詞も覚えていないまま披露したといいます。完全アドリブと思われるルイ・アームストロングのモノマネはジャズ史に残る一世一代の名唱です。後者ではテーマを歌ったあと、急速にテンポをアップし、神業ともいえる見事なスキャット・シンギングを披露し、チャーリー・パーカーの“オーニソロジー”やスタンダード名曲“煙が目にしみる”など、いろいろな楽曲のメロディを引用したり、ウィットを交えたエンタテイメント性の高い歌唱で引っ張る様子は同曲のヴォーカル名演としてはジャズ史上最強でしょう。
なお、本作は1960年のオリジナル発売の際は、9曲収録ですが、CD時代になってから、1993年に、4曲追加のコンプリート版がリリースされました。1960年の1月にベルリンでのコンサートで放送音源としてレコーディングされた2曲“ザット・オールド・ブラック・マジック”、“アワ・ラヴ・イズ・ヒア・トゥ・ステイ”と、1956年にライヴ・レコ―ディングされ、1958年に『ジャズ・アット・ザ・ハリウッドボウル』として2枚組LPに収録されていた2曲“ラヴ・フォー・セール”、“ジャスト・ワン・オブ・ゾーズ・シングス”、そこに拍手やMCのトラックを加え、楽曲としては13曲ですが、トラックは19トラック仕様になっています。
【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
一度はこんな風に歌ってみたい “マック・ザ・ナイフ”。
“マック・ザ・ナイフ”はいろいろなアーティストによる演奏や歌唱がある超有名曲ですが、エラのこのヴァージョンは何度も聴きたくなりますし、一度はこんな風に歌えたらなあ、と歌手ではない人でもそんな妄想をしてしまうぐらいの名唱です。
この曲は、このライヴの前年にボビー・ダーリンが歌ってヒットしており、それより前の1955年にはルイ・アームストロングが同曲をリリースしており、それを受けて、歌詞の中に両者の名前を出しつつ、ルイ・アームストロングの歌い方を真似して歌うという、即興芸につながっています。
またこういう演奏はライヴ空間の中で瞬発的に生まれるものであり、スタジオ録音では決してこうはならないでしょう。
このエラの演奏から24年後にリリースされたフランク・シナトラが歌う同曲も見事な創作歌詞をおりまぜた名演となっておりますのでご紹介しましょう。1984年のアルバム『L.A.イズ・マイ・レディ』に収録されており、このアルバムはクインシー・ジョーンズのバックアップで数々のミュージシャンが参加した豪華作で、シナトラにとっては最後のオリジナル・ソロ作品となったものです。ここでシナトラはエラの歌詞をなぞらえて、ボビー・ダーリンやルイ・アームストロングの名前を引用しますが、その後、クインシーを始め、ジョージ・ベンソン、ブレッカー・ブラザーズなど参加メンバーの名前をリスペクトを込めて歌詞に盛り込んで聴かせてゆく展開が素晴らしいです。
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タグ : WEEKEND JAZZ
掲載: 2019年04月12日 09:58