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WEEKEND JAZZ ~週末ジャズ名盤探訪 Vol.36

チック・コリア 『ナウ・ヒー・シングス・ナウ・ヒー・ソブス』(1968)

CC

チック・コリア(p)
ミロスラフ・ヴィトウス(b)
ロイ・ヘインズ(ds)

1968年3月14、19、27 日 ニューヨークにて録音

曲目(オリジナル・アルバム発売時):
01.ステップス-ホワット・ワズ
02.マトリックス
03.ナウ・ヒー・シングス-ナウ・ヒー・ソブス
04.ナウ・ヒー・ビーツ・ザ・ドラム-ナウ・ヒー・ストップス
05.ザ・ロウ・オブ・フォーリング・アンド・キャッチング・アップ

【アルバム紹介】
1.60年代後半、新主流派によるピアノ・トリオの傑作
2.天才チック・コリアの“神がかり”的な演奏が圧巻
3.トリオのメンバーは“最強のトライアングル

60年代後半は、その頃台頭してきた新しいスタイルのジャズ・ミュージシャン=新主流派による優れたアルバムが数々輩出されました。前週ご紹介のハービー・ハンコックの『処女航海』もその一つとお伝えしましたが、本作もその分類での傑作にあたるアルバムです。

チック・コリアはハービー・ハンコックの一歳下でほぼ同年代の新主流派のピアニストであり、ともにマイルス・バンド出身という共通点があります。そのチック・コリアの初期ピアノ・トリオ大名盤が本作になります。
新主流派のミュージシャンは、基本オリジナル曲メインでアルバム制作を行い、それまでのジャズ・ミュージシャンのように“スタンダード曲を演奏する”ということは極めて稀でした。ここでも全曲チック・コリア本人のオリジナル曲となります。中でも2曲目の“マトリックス”は名曲として知られるナンバーでもあります。

本作でのチックの無限のボキャブラリーの中から次々と繰り出されるフレージングは“神がかり”的なプレイとも言うべきもので、ベースのミロスラフ・ヴィトウス、ドラムスのロイ・ヘインズという“最強のトライアングル”から飛び出してくる音は、クールでいながら、奥の方にはホットな炎が煌々と燃えているような演奏ゆえ、その緊張感から伝わってくるスリリングさは半端ではありません。いうなれば、「涼しい顔してものすごいことをやってしまっている」演奏というものです。

語法、アプローチ、そこに漂う空気感はそれまでジャズのピアノ・トリオの作品では決して聴くことができなかったもので、当時はまさに新主流派による“新しい時代のピアノ・トリオ・アルバム”と位置づけられました。

なお、この時のトリオはその後、何度か共演し、アルバム・リリースやレコーディングを行っています。
・トリオ・ミュージック (ECM、1982年:廃盤)
・夜も昼も (ECM、1986年)
・ランデヴー・イン・ニューヨーク (ストレッチ、2003年:廃盤)※チックのキャリア集大成アルバム

【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
“マトリックス”、インプロヴィゼ―ションの高揚感がすごい。

このアルバムを聴いていると、ジャズだけのカテゴリーではくくれない、現代音楽などの要素も感じられ、いわゆるジャズ・ピアノの一般的な概念そのものが根本的に覆される音楽を感じとることができます。
この2曲目の“マトリックス”は本作のハイライト曲であり、チックの代表曲ですが、不思議な、それでいて短いテーマが提示され、即アドリブ=インプロヴィゼーションに入っていきます。ここでのチックのフレージングは調性のイン&アウトを実に見事に展開しており、独特の浮遊感と高揚感を醸し出していますが、驚くことに分析してみると、コード進行はいわゆる12小節のメジャーのブルースだという事実。最初聴かされて、これがブルースに聴こえる人はまずいないと思われます。ジャズのブルース演奏といえば、このコーナーのVol.16でご紹介したレッド・ガーランドの“Cジャム・ブルース”のような演奏を指します。シンプルなコード進行ゆえ、閃きのフレーズ含むアグレッシヴなプレイを存分に発揮できる、という天才チックならではの発想であったとも言えます。

SHM-CD国内盤(一般普及盤)

 

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タグ : WEEKEND JAZZ

掲載: 2019年07月26日 10:30