Joachim Kuhn(ヨアキム・キューン)|注目のソロ・ピアノ作品『Touch The Light』
1944年生まれ、鬼才ピアニスト、ヨアヒム・キューンによる注目のソロ・ピアノ作品。旧東ドイツ、ライプツィヒ出身で、冷戦下の元、危険を乗り越えて、東から西に脱出/亡命したキューンは60年代半ばから70年代にヨーロッパのまさに先端となる前衛的な演奏を展開し、のちにはオーネット・コールマン、アーチー・シェップといった巨匠とも共演。一方、クロスオーバー/フュージョン的作品も経て、80〜90年代のJ.F.ジェニー・クラーク、ダニエル・ユメールとのトリオによるプログレッシヴな演奏はヨーロッパ・ジャズの文字通り金字塔で伝説となっていますが、ソロ・ピアノ、特にスタンダード的なものに取り組んだキューンの演奏には、別の響きもあります。
本作は、そんなキューンが、クラシックから、アメリカン・ソングブック、ジャズ・スタンダード、そして、プリンス、ボブ・マーリーまで、印象的なメロディを持った楽曲を取り上げた作品。同ACTでは2005年、2018年とソロ作品をリリースしていますが、2005年作は半分がクラシック、2018年作品はオーネット・コールマン集であり、世界観としては、90年代に発表された名作Label Bleuの『Famous Melody』ともつながりが見えます。
録音は、イビサの自宅にて。15ヶ月にわたって自らのスタインウェイに向かって演奏。イビサ島という環境と自宅録音、年齢、それらもあって、緊迫感というものは多少薄れるものの、選ばれた楽曲がシンボリックであり、また、思慮深さが感じられる展開。特に、もっとも影響を受けた作曲家の一人というベートーヴェンの交響曲、キューンの亡命への道を広げたとも言われる66年のグルダ・コンペで審査員をつとめたジョー・ザヴィヌルの名曲「リマーク・ユー・メイド」、そして、アルゼンチン出身のガトー・バルビエリから演奏を依頼された「ラスト・タンゴ・イン・パリ」の再演と、それらは、キューンの人生と呼応するもので、一つ一つに哀愁が漂います。また、ボブ・マーリーの「Redemption Song」は、自由への希求を歌った楽曲であり、キューンが西側への世界に憧れ、亡命したこととも重なりを感じさせます。キュレーションはACTのシギ・ロッホであり、選曲のきっかけは明らかにはされてないものですが、そうした背景と重なるこのソロ集は、キューンにとっての確かなマイルストーンであることも感じさせます。そして、ラストは、ハッとするほどに美しいビル・エヴァンスの名曲「ピース・ピース」!
ところで、タイトル・トラックは、自宅のテラスで見る海に沈む夕日の美しさをとらえたものとのこと。70代半ばとなったキューンが、いい意味で力は抜きながら、ピアニストとしてのセンスを見せる表現。注目の13ピースがここにあります。
輸入盤CD
輸入盤LP
【収録曲】
01 Warm Canto (Mal Waldron) 2:54
02 Allegretto, Symphony No. 7 (Ludwig van Beethoven) 3:55
03 A Remark You Made (Joe Zawinul) 3:39
04 Sintra (Joachim Kühn) 3:17
05 Ponta de Areia (Milton Nascimento) 2:29
06 Redemption Song (Bob Marley) 3:49
07 Touch the Light (Joachim Kühn) 3:38
08 Fever (John Davenport & Eddie Cooley) 3:13
09 Blue Velvet (Bernie Wayne & Lee Morris) 2:56
10 Stardust (Hoagy Carmichael) 4:40
11 Purple Rain (Prince) 4:39
12 Last Tango in Paris (Gato Barbieri) 4:45
13 Peace Piece (Bill Evans) 3:15
【メンバー】
Joachim Kuhn (p)
タグ : ジャズ・ピアノ
掲載: 2021年01月19日 17:29