WEEKEND JAZZ ～週末ジャズ名盤探訪 Vol.286

キース・ジャレット・トリオ『TOKYO'96』(1998)

キース・ジャレット(p)
ゲイリー・ピーコック(b)
ジャック・ディジョネット(ds)

1996年3月30日、東京、Bunkamuraオーチャードホールにてライヴ録音

曲目：
01.イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー
02.ネヴァー・レット・ミー・ゴー
03.ビリーズ・バウンス
04.サマー・ナイト
05.四月の想い出
06.モナ・リザ
07.枯葉
08.ラスト・ナイト・ホエン・ウィ・ワー・ヤング～カリビアン・スカイ
09.ジョンズ・アビイ
10.マイ・ファニー・ヴァレンタイン～ソング

【アルバム紹介】
1.ピアニスト、キース・ジャレットの“スタンダーズ・トリオ”での90年代のライヴ盤
2.コンサート当日は当時の皇太子御夫妻も会場に
3.このトリオならではのインタープレイで終始観客を魅了

2024年はECMレーベル創設55周年、今回ご紹介するのは、レーベルの看板アーティストの一人であるピアニスト、キース・ジャレットの“スタンダーズ・トリオ”での90年代のライヴ盤です。

本作は1996年の3月30日に東京・渋谷にあるオーチャードホールで行われたライヴ・パフォーマンスの模様を収録したもので、CD以外にレーザーディスクやDVDでも発売されていました。また、コンサート当日は当時の皇太子御夫妻も会場で演奏を楽しまれたことで知られています。

1980年代に活動が本格化した“スタンダーズ・トリオ”は90年代に入ってもその安定した演奏で絶大な人気を誇っていましたが、本作がレコ―ディングされた1996年頃にキース・ジャレットは慢性疲労症候群なる病気を発症し、この後しばらくの間ブランクの時期に突入してしまいました。それを思うと、想像ではありますが、ここでの演奏も少なからずその影響があったのでは、と思われます。ただ、聴いている限りはまったくそんな不安要素は見当たらず、このトリオならではのインタープレイで魅了し、東京の夜を最高の演奏で飾っているのがわかります。

【スタッフのつぶやき:この1曲を必ず聴いて下さい】
ロマンティックな魅力あふれるスタンダード・ナンバー“イット・クッド・ハプン・トゥ・ユー”。
ジャズといえばスタンダード曲の演奏は王道中の王道ですが、このトリオの演奏にかかると、お馴染みのナンバーなのに、それまで聴いたことのないような新鮮な息吹が感じられ、それが人気の秘密でもありました。ここでの演奏もそんな雰囲気がたっぷりと伝わってきて、ライヴ演奏ならではの醍醐味もあってか、聴きごたえ十分です。
楽曲は1943年、ジミー・ヴァン・ヒューゼンの作曲、ジョニ―・バークの作詞によるもので、ミュージカル・コメディの1曲として世に出ました。
通常、スタンダード・トリオの演奏は最初にテンポ・ルバートでのキース・ジャレットのソロ・ピアノで始まり、途中から、ベース、ドラムスが加わる、というパターンが多いですが、ここでの解釈もそれを踏襲しています。まず、キース・ジャレットのピアノがロマンティックにソロ・ピアノでテーマを提示し、ベースとドラムスが入ってくるとややテンポ・アップしてテーマ・メロディを奏で、そのまま、ピアノ・ソロへと移ってゆきます。独特のうなり声も冴えわたり、次々とエモーショナルにフレーズを繰り出します。ピアノ・ソロが一段落すると会場からの拍手の中、続いてゲイリー・ピーコックのベース・ソロになります。再びキース・ジャレットのピアノが戻ってくると、今度はジャック・ディジョネットのドラム・ソロとのソロまわしの展開になります。それが落ち着くと、テーマ再現となりますが、そのまま、自由な演奏でつないでゆきつつ、最後は静かにエンディングとなり、割れんばかりの拍手で迎えられます。
本作はシチュエーションが東京ということもあって、非常に親近感を持って聴くことが出来ますが、結成して10年以上経った“スタンダーズ・トリオ”のとある日の名演を記録した一枚として、全編を通して、じっくり聴ける内容になっています。
なお“スタンダーズ・トリオ”は2014年で活動を終了し、その後2020年にキース・ジャレットは体調不良により演奏が困難な状態だとアナウンスされており、同年ベーシストのゲイリー・ピーコックも亡くなり、今やジャズ史に残る伝説のジャズ・トリオとなっています。

国内盤SHM-CD